小説4

□森田と岡崎16 その日の岡崎の様子は
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岡崎さんは、仕事ができる。

たかが居酒屋のバイトだろーっていうかるーい気持ちで入ったら、チャラいくせに厳しい先輩がいてすげーむかついた。

でも、見てたら憧れて、すげーなこの人って思う。かっこいい。

ぱっと見はちょーやるきなさげだ。
髪の色とかも、飲食店でよく許されるよね系の。

でもよく来るお客は岡崎さんのことをすごく気に入ってる。気がきくし、ちゃんとあいそいいし。
ちょっと笑ったらすげー女にモテそうな甘い顔になるから、おばさんとかはほんと岡崎さんのこと大好きだ。

「なあ平井ー」

そんな岡崎さんが平井をめんどくさそうに呼ぶ。あいそもなにもない。

今日は天気のせいで店が暇で、多分もう少ししたらホールの誰かが帰れる。
暇な店にいるのが一番いいから俺は帰りたくないなー。仕事しなくても時給もらえるし。
とか言うと岡崎さんに殺されるけど。

「あっはい!」

平井は今日もかわいい。

岡崎さんに呼ばれると、平井はすぐびくっとする。
岡崎さんは基本後輩に厳しいけど、平井は特に怒られるから。

平井、トロいからなぁ。
でもそーゆーとこがほんとかわいい。
なんで居酒屋でバイトしてんだろ。雑貨屋とかで働いてそう。

「女の子ってさぁ…好きな人に綺麗って言われたらやっぱ嬉しいもんなの」

今日の岡崎さんはなんだかアンニュイだ。
気だるい感じ。風邪でも引いたのかな。

「そうですね。嬉しいです。だって好きなんですよね。そしたらやっぱり嬉しいです」

平井はマジメに答えた。

「ふぅん…そうかー…」

珍しく岡崎さんがため息とかついた。
なになに。彼女と揉めたのか?岡崎さん、年上のギャルと付き合ってるらしいから。

「岡崎さん。ダメっすよ、女子は褒めないと。褒めた分だけ綺麗になるんすから」
「へえーお前彼女に綺麗とかかわいいとか言うの」
「言いますよ!毎日言います」
「…そんで毎日かわいくなってくの?」
「なりますよ、照れて嬉しそうな顔とか超かわいいっすよ」
「なんかお前気持ち悪いよ。そもそも西尾に聞いてないよ、平井に聞いたんだよ」
「俺だってわかりますよ!女心くらい」
「いいからお通しのポテサラ混ぜて来いよ」
「さっき混ぜましたよ」
「いくらでも混ぜて来いよ」
「なんでっすか!」

ははーと笑って、岡崎さんは話を切り上げた。

「帰りたい人ー」

岡崎さんが俺と平井に向かって言う。俺たちは棒立ちのままだ。

「おっけーおっけー俺が帰る」

岡崎さんはさっさと店長に言いに行った。

「岡崎さんの彼女ってどんなかな」
「年上ですかね」
「そうらしいよ。あの人精神年齢たけーからな」

わかったような口をきいてしまった。

あまりにヒマで、こっそり携帯いじって、それから着替えに行った岡崎さんと雑談しようと思って事務所の方に行ったら、中から岡崎さんの声が聞こえた。
電話中だ。

「うん。店ヒマでさ。…うん……まじで?じゃあ迎えに来て。……うん…嬉しい。…ありがと」

おお。彼女か。すげえ。迎えに来てもらうんだ。やっぱ年上だ。だってすげえ甘えた優しい声。
やべえ。なんかやべえ。岡崎さんかわいい。

「はー?お前なにやってんの。仕事しろ」

気付いたら岡崎さんが事務所から出て来てた。
今日も私服がいい感じ。

「岡崎さん。彼女とメシすか」
「電話聞くなよアホ」
「いいなあ。美人すか」
「うるせえって仕事しろ」
「写メは?写メは?」
「仕事しねーなら帰らせんぞ」
「すんません」

店長とキッチンにおさきっす、と言い、俺たちにおつかれーと言って岡崎さんは店を出て行った。

「おい平井。岡崎さんの彼女見に行こ」

平井のところに戻り、そう言って岡崎さんが出て行った裏口に回る。

「え?岡崎さんの彼女?来てるんですか?」
「迎えに来てって電話してた」
「あらら…」

平井は戸惑いながらもついてきた。

ドアを開けてそっと外を覗くと、岡崎さんが白い軽に乗るところだった。

「おー…えー…」

運転席には、男。

俺と平井は目を合わせて、無言でドアを閉めた。

「なんだ彼女じゃねえじゃん」
「ですねぇ」
「えー?でもさっきかわいい声で『迎えに来てー』って電話してたのに」

岡崎さんのマネしたら、平井が笑った。
おかしいなー。

「…もしかして」

平井がくそマジメな顔で俺を見る。

「彼女さんの元カレさんに拉致られたとこなんじゃないですか」
「ふは!まさかー!岡崎さん自分で乗ってたし!売られたケンカ買った感じ?うける。…それより」

岡崎さんのあの、綺麗系の顔。

「おかまバーで働いてたりして…同伴じゃね?」
「あはは!…あり得る…」
「なー」
「すごく綺麗そうです」
「ちょっと背がデカすぎるけど」

やべえな、やばいですね、と言いながらホールに戻って、明日岡崎さんに怒られないように掃除を適当にして時間をつぶした。

後から気づいたけど、ばりばりの男のかっこで同伴とかないよね。
謎。






-end-
2014.12.21


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