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□一年物語
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【3月17日】
「一朗太君、書いて?」
「あぁ、じゃあ俺のも。」
そう2人で会話しお互いの卒業アルバムを渡す。
思ってみれば、私から一朗太君に話し掛けたことあんまりないな。
今までありがとう!
家隣だしまた会うかもねっ
高校行ってもサッカー頑張れ★
っと!
なんともあり来たりな文章だけど、サッカー頑張って欲しいのは事実だし。
それに家が隣なのも事実だし。
今までずっと一緒の学校だからありがとうだし。
「はいっ、」
「サンキュー、じゃあ俺も書いたから、」
ポンっと言う感じで私に卒業アルバムを渡す。
「ありがと。」
「あぁ、」
それだけ言うと、男子の集団の中に消えて行った一朗太君。
さて...。なんて書いたんだろう??
ゆっくりと一朗太君が書いてくれた文章に目を通す。
「ぷっ、」
思わず笑がこぼれる。だって、
隣の家ってあれだよな〜
幼馴染って奴!?
これからも宜しく〜!!
やっぱ昔から変わってないかも。
でも1番嬉しかったのは。
『幼馴染って奴!?』
って所かもしれない。
幼馴染って思ってたの私だけじゃ無かったんだ。
一朗太君もちゃんと思っててくれたんだ。
それがなんだか無性に嬉しかった。
そして、
「...。」
何故だか鼓動が早くなる。
この時は自分の気持ちと向き合う事が怖かったのかもしれない。
【3月18日】
これで卒業式を終わります。
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体育館を退場した私達は後輩達に見送られて正門の前に集まっていた。
「名前ー!!」
「なんか3年間あっという間だったね。」
「だよねー、っじゃなくて!!あんたは誰に貰うの!?」
「はっ?何を??」
「第2ボタンだよ!!」
「誰にも貰わないけど?」
「はぁぁ!?!?」
いや、そんなに驚かられても...ねえ?
だって貰いたい相手いないしさ。
「何言ってんの!?風丸に決まってんじゃん!!」
「なっ、なんで一朗太君!?!?」
本当になぜ??
大体一朗太君は幼馴染だし...。
というかもう誰かにあげてるんじゃない?
「言っとくけどね!風丸君の第2ボタンはまだ存在してるからね!!貰うなら今だよ!!!」
「貰わないってば!!」
仮に一朗太君に頂戴って言っても拒否られるでしょ。
そう思い一朗太君の方を向く。
パチ...
どうしよう、目、あっちゃった...。
なんかいかにもボタン欲しい子みたいじゃん。
「なぁ、」
「...一朗太君!?」
風「あのさ、」
「うん、」
なんか空気が緊張してる。これは気まずい雰囲気だ。
「いる?」
「えっ?」
一朗太君の指は自分の学ランについている第2ボタンを差していて。
で、その言葉は他でもない私に向かって言われていて。
「えっと、」
「嫌だったら良いんだけどさ、一応幼馴染だし?」
「別に嫌ではないけど...、そう言うもんはちゃんと好きな子に貰われないとさ!!ね?」
「そうじゃなくて、」
「っまあとにかく!!今までありがとう。これからも宜しくでしょ?」
「あっあぁ。」
この時、一朗太君の第2ボタンを素直に貰っていたら何か変わっただろうか?
IF...もし変わっていたとしたらどう変わっていた?
ふと空を見上げる。
「今日、少し暖かいね。」
「えっ?あぁ、確かに。」
一朗太君は私につられるようにして空を見上げる。
「俺さ、名前さんが幼馴染でよかった。」
トクン...
「そっそう?」
やだ...。そんな事言わないでよ。
「うん。」
じゃないと、
「そっか、私も良かったよ、幼馴染が一朗太君で。」
「ありがとな。」
サヨナラするのが辛くなるじゃん。
たかが幼馴染されど幼馴染。
自分の気持ちに気がついたのが遅かったのかもしれない。
だって、幼馴染に言われた言葉に心臓がこんなに暴れ出すのはおかしいでしょ?
もう1度空を見上げる。
一朗太君。
私 、今になって一朗太君の事、好きになりそうかも...。
幼い頃2人で見上げた蒼く澄みきった空が少し近くなったような気がした。
一年物語
(一朗太君、私と幼馴染になってくれて本当にありがとう。)