拝啓霧野蘭丸様

□第6章
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「どういう事ですか?」


「霧野君には、言っとこうかな。」


椅子から立ち上がり窓からグラウンドを見る苗字先輩。
その後ろ姿はなんだか小さくて、でもどこか凛としていた。
あぁ、やっぱり守ってあげたくなるタイプだよな。


「薄々気がついてると思うけど、南沢君は私の事なんて好きじゃない。」


「えっ?」


「好きなのは私だけ。だからあんなに態度が冷たいんだよ。」


身体に衝撃が走った。
南沢さんは苗字先輩の事を好きじゃない?
確かに、苗字先輩以外の女子に手を出しているのは知っていた。(現に、公園での出来事もあるし。)
でもてっきりそれは遊びで、本命は苗字先輩だと思っていたし、態度が冷たいのも照れ隠しだと思っていた。


「でも付き合ってるんですよね?」


「うん。形、だけだけどね。」


そう言う苗字先輩の声は少し震えている。


「告白して、付き合う事になって、私凄い浮かれてた。やっと1年生の頃からの片思いの恋が実ったって。」


1年生の頃から...。
南沢さんへの苗字先輩の想いは本物だ。
俺だったらそんなに長い間片思いなんて出来ないと思う。
どこかで諦めてしまうだろう。


「でも、付き合ってからもただ見てるだけ。恋人らしい事なんて1度もしなかった。」


「苗字先輩...。」


「馬鹿だよね、私。南沢君にはもっと派手で可愛い子が似合うのに...。私なんか不釣り合いなのに。」


苗字先輩の声は震えを増し、弱った声になってきた。
後ろ姿もどこか震えている。


「南沢君にとってはただの遊びなのに、」


何時の間にか下を向いて手で顔を覆っている苗字先輩。


泣いてるんだ...。


「苗字先輩、」


「期待しちゃって、本当にはずかs...」


それ以上、聞きたくない。


「言うな!」


そう思ったら勝手に身体が動いていて。
言葉を遮り、そのまま苗字先輩の身体に後ろから腕を回す。


「霧野、君...?」


やっぱり、苗字先輩の華奢な身体は震えていた...。
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