拝啓霧野蘭丸様

□第9章
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階段をのぼり突き当たりで曲がれば図書室、と書かれたプレート。
その部屋のドアを開ければいつもの光景が飛び込んできた。
大量の本が並んでいる棚の前で本の背表紙を眺めている黒髪が奇麗で優しそうな雰囲気の苗字先輩。
どうして俺は、よりによって苗字先輩を好きになってしまったんだろうか?


「先輩、こんにちは。」


開けたドアを閉めながら笑顔でそう言えば少し肩をぴくっとさせこちらを向く苗字先輩。


「あ、き、霧野君。うん、こんにちは。」


けど、今日はなんだか変な気がする。苗字先輩の笑顔が引きつっている。
何か合ったのか?また南沢さんに?いや、もう別れたんだからその可能性はないだろう。
それじゃあ、一体...。
好きな人の事は小さな事でも分かってしまう、と前にクラスの女子が話しているのを聞いた事がある。
苗字先輩を好きになってからその気持ちがよくわかるような気がする。


「今日は何するんですか?この前ので資料とかの整理終わりましたよね?」


「あ、えっと。」


軽く焦りながら考える様子の先輩。
その焦っている様子を見れば可愛らしいなと思いつい口元が緩んでしまう。
もう誰の物でもない。南沢さんと苗字先輩が付き合っていた頃は好きになっちゃ駄目だと自分の欲望を制御していた。
でも今はもう違う。制御しなくて良いんだ。


「霧野、君。」


「なんですか?」


「今日はもう部活いっていいよ?」


「えっ.....。」


柔らかかった表情がいつになく真剣な表情になるのが自分でもよくわかった。


「ほら、やる事ないから。だ、だから今日は。ね?」


「先輩、」


ようやく分かった。今日の先輩から感じられる違和感。引きつった笑顔。おどおどした態度。
俺の答えは多分合っていると思う。


「え、あ、霧野君?」


じりじりと苗字先輩との距離を縮めれば、数メートル合った距離が50センチほどになった。
先輩の背には大きな本棚、そして目の前には先輩より背が10センチほど高い俺。
やばい、なんかこの状況興奮する。


「苗字先輩...、」


そう呼べば不安そうな目で俺を見てくる。
いままで苗字先輩が南沢さんに独占されていたと思うと凄く悔しい気持ちになった。


「き、霧野君?」


「俺の事、避けてますよね?苗字先輩。」


グラウンドからサッカー部の元気な声が聞こえてきた。
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