禁断の恋。

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「1時15分か」


腕時計に視線を落とし先程まで授業をやっていた理科室へ向かう足のスピードを上げる。
鬼道と委員会、そして苗字の事で話し合っていたらいつの間にか5時間目の授業開始五分前となってしまった。
幸い五時間目は授業を持っていないがその時間を利用し次の授業の計画を立てるつもりだったのだが……。


「ふう……」


呼び出しされ急いでいた事もあり理科室に教科書を忘れれしまったのだ。
溜息を短く一回付きようやく見えてきた数メートル先の理科室。しかし、てっきり閉まっていると思ったドアは開いていた。そして……


「苗字?」


何やら実験道具を片付けているその姿。腕まくりをしてビーカーを洗ったり棚に戻したりと見るからに忙しそうだ。


「手伝うか」


取りあえずそうしなければ5時間目の授業苗字は遅れてしまう可能性がある。
それと手伝って優しくしてやったらあいつが俺を避けるのをやめるかもしれない。
そう思い理科室に足を踏み入れた。それとほぼ同時にピクンと肩を揺らす苗字。


「っ、一人なのか?」


「……そう、ですけど。 佐久間先生はどうしてここへ?」


「あぁ、理科室に教科書忘れちゃってさ。お、あったあった」


警戒しているのだろうか?視線が鋭く冷ややかだ。


「他の奴は? もしかして片付け、押し付けられたのか?」


「っ」


「どうなんだ?」


「別に」


明らかに不機嫌そうで……。どうして居るんだと、早くどこかへ言ってしまえという雰囲気が苗字から感じられた。
そんなにも自分は嫌われているのか、と思うと悲しくなるのは当たり前だ。それが例え生徒だろうと変わらない事。


「別にじゃないだろ?俺はお前を心配して……」


「やめて下さい」


「え?」


「そう言うの、やめて下さい」


さっきまで強気だった苗字との距離をジリジリと縮めてやれば、その強気はどこかへ消え俺に対して怯えているようにも見えた。
そりゃそうだろう。立派な社会人で自分よりも明らかに背が高い男の人にこんな事をされたら無理も無い。


「苗字、お前はどうして……」


「来ないで、ください」


先程鬼道に言われた言葉を思い出す。『苗字はコミュニケーションが苦手なだけだ』と。


「どうしてそんなにも俺を避けるんだ」


「だ、だから来な……あっ……?」


一瞬の事だった。床にのびる黒いコード。それに絡まる苗字の足。鈍い音がしたと思えばそのコードに巻き沿いにさせたビーカーが大量に入ったトレイ。


「苗字……!」


必死だった。ただ守りたかった。生徒を、苗字を。
その腕を引き自分の腕に納めてやったのと同時だった。


「うっ……」


背中に大きな衝撃そして痛み。そしてその衝撃に負け力が抜ける身体。
ふと感じたのは小さな力で俺のスーツの裾をぎゅっと握られた感覚だった。

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