禁断の恋。

□6
1ページ/1ページ

「保健の先生、確か今日は出張だったな」


誰もいない五時間目の保健室。その設定がものすごく緊張し恥ずかしい。
半強制的に保健室に連れてこられたせいか二人の間の空気がぎこちない。


「じゃ、じゃあ、椅子に座って」


「はい……」


やはり男性教師と保健室に二人きりなんて変な感じがする。変に意識してしまい何時もの冷静さはどこに行ったのか。
でもそれは私だけじゃなく佐久間先生も同じらしい。先程から少しも目を合わせようとしない事がそれを物語っている。


「少ししみるかもな」


椅子座った私の目の前に、床に膝を着き手当をする先生。
不意に私の手首に添えられた佐久間先生の手にピクンと身体が反応した。


「あ、悪い、大丈夫か?」


「は、はい……その、すみません。」


何やっているんだ、ただ手首を触られただけなのに。私の目の前で真剣な眼差しで手当をする先生。もしかしたら……
ふと、頭の中で生まれた考え。本当は、優しい先生なんじゃないか?お人好しではなく思いやりがある。こういう風に手当までしてくれ、ビーカーから守ってくれた。


「苗字が謝る事じゃないだろ? あー、結構血出てるな、痛いか?」


「だい、じょうぶです」


と、言うのは嘘で。傷口に消毒液がしみる。ジワリ、痛さがぴりぴりと広がった。


「あんまり我慢するな。 あのさ手首握るけどいいか?」


「え?」


「その方が手当しやすいんだ」


佐久間先生の質問に少し戸惑う。でもこれはただの手当なんだ。べつに変な事じゃない。
そう思いこくんと頷けばゆっくりと握られる私の手首。消毒も終わり薄く包帯が巻かれる。


「包帯、きつくないか?」


「平気です」


「そっか、後で悪化したら俺の所へおいで」


「……はい」


にこりと微笑んだ佐久間先生の顔から顔を背ける。
やっぱりさっき思った通りなのかもしれない。自分が思っている程悪い先生ではない。


「まあ、そんなに酷くなくて良かった。 五時間目の授業、もう少しで終わるけど先生は誰だ?」


「あ、鬼道先生です」


「じゃあ国語か。後で事情は俺から伝えておくから。安心しなさい」


「ありがとうございます」


「ん、いいって。……あ、その、ちょっとごめんな」


突然何かに気がついたような声を発した佐久間先生。なんだろうか?と思い先程まで背けていた顔をもう一度先生に向ける。
瞬間、先生の手が私の制服のリボンにかかった。なんで、リボンに手をかける必要が……?鎖骨に指先がふれ先程以上に強ばる身体。
怖い、と思ったのはその時で……。何かの小説で出て来た。男の人に触れられると身体が硬直したようになる、と。


「っ」


ぎゅっと目を瞑る。まさにこれがその硬直なのかもしれない。
何をされるか分からない恐怖に襲われる。


「ん、もういいよ。ごめんないきなり。多分さっきのガラスの破片が付いてたから」


「え、あ……ガラスの、破片……」


そう聞けば一気に力が抜ける身体。なんだガラスの破片か。もっと色々想像してしまったではないか。なんだか想像してしまった自分が恥ずかしい。
でも佐久間先生に触れられた鎖骨。なんだか変な感じがする。そこに神経が集中しているからななのかもしれない。


「付いてたままじゃ危ないだろ?」


「あ、はい」


鎖骨に自分の手を宛てがう。なんだかここを触られたと思うとよく分からない感覚に襲われた。
恥ずかしい、そしてなんで佐久間先生が取ったのだろう?私に言えば自分で取ったのに。
なんだか今佐久間先生に触れられた事で先程思った、本当はは優しい先生。と言う感情が一気に崩された。
男の人に触れられる、と言う事は今まで殆どなかった。正直佐久間先生に対して気持ち悪い、と思ってしまったのが事実だ。


「なあ、苗字」


「なんですか?」


「お前は……俺の事が嫌いか?」


「え?」


「あ、いや……なんでもない。そ、それじゃあ俺は職員室に戻るよ。あ、今度の委員会はちゃんと顔だしなさい」


俺の事が嫌いか?……分からない。ただ言える事は私の苦手なタイプは佐久間先生みたいなタイプ、と言う事だけだ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ