禁断の恋。
□7
1ページ/1ページ
「はぁ」
思い出されるのは保健室での事。
佐久間先生に手当てしてもらった所を見る度にこぼれる溜息。
「溜息なんて若いうちからつくな、幸せが逃げる」
「……」
「佐久間と何かあったか?」
疑いの目をしている鬼道先生。その視線は私の手首に向けられてた。
「鬼道先生はいいですね、気楽で」
目の前にいる鬼道先生に半分嫌味のように言う。
放課後の教室で、どっかのお人好し教師のせいで出れなかった分の国語、それから集中出来なかった六時間目の社会を勉強していたところ、俺は社会も得意でな。
と、特に、も。を強調して言いながら教室に入って来た鬼道先生が国語と社会を教えてくれてる、と言う状況だ。
「なにも気楽じゃない、誰かさんのせいでな」
誰かさんのせいって……。
少しニヤっとしながら私の顔を見る鬼道先生。緑の大き目の眼鏡に光が反射して正直眩しい。
「っ、それ、どう言う意味ですか?」
「さあな、ただ委員会の委員長を嫌々やっている生徒を持つと大変でな」
「っ」
この人って人は……。鬼道先生にはいつも敵わない。頭はおかしいくらいにいいし、運動神経も抜群だとか。
それでもって、いつだって上手い言葉を並べ、私に反抗出来なくして。
現に、それで私は委員長をやる事になったと言っても間違っていない。
「まぁ、退屈しなくていいが」
そして軽く問題児扱いをされたあげく、退屈しなくていいと。
私はあんたの暇つぶしの玩具じゃないです。と言いたかったがそんなことを言ってもまた私が負けるだろう。
「それは良かったですね」
少し嫌味ったらしく言って見るが鬼道先生は感情一つ乱さず言葉を続ける。
「まあな」
「じゃあ次お願いします」
少しわざとらしかったか?
このまま戻さなかったらいくら時間があったって勉強が終わらない。そう頭で考えた私は話を問題に戻した。
「ふっ、まぁいい。 ん?あぁ、この問題は……」
本当、悔しいくらい説明うま過ぎる。
問題を見ただけで解き方を見抜いてしまうその頭。まさに天才。
自分の担当の教科以外も難なくこなしてしまう。なんだか社会の先生が可哀想に思えて来た。
「で、この時代に……」
どっかの理科の教師とは大違い、と素直に思える。まあ、佐久間先生も上手いと言えば上手いけれど。
その二人が長年の友人って前に聞いた事があるけど、よくここまで上手くやってこれたなと。そう思い少し感心。
「そうすれば……って、おい」
「あっ、はい」
鬼道先生の注意で一気に現実に戻される。完全に考え込んでしまっていた。
こうなったのもすべて佐久間先生のせいだ。
「説明ちゃんと聞いてるか?」
「……すみません」
私がそう言うと鬼道先生は小さく溜息をついた。溜息をつくな、と言った本人がついてるじゃないか。
「苗字」
突然真剣な声になる鬼道先生。いつになく顔が強張っている。
しかしどこか心配しているような表情に見えたのは気のせいだろうか?
「なんですか?」
「気をつけろ」
「……えっ?」
一瞬空気が凍りつく。しばらく反応が出来なかった。
気を、つけろ?どう言う事だろうか?
何故、鬼道先生がそう言ったのか理解出来ない。何か、意味でもあるのか?
いや、意味が無かったらこんな事言う訳ない、か。半分固まった状態の私は何も聞く事が出来なかった。
ただ、鬼道先生の視線はやっぱり私の手首を向いていて……。
その事が何の意味を持っていて、私に何を伝えようとしているのかが分かったのは、それから大分後の話……