禁断の恋。

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あれから数週間程経った時だった……
あの日、あの放課後、鬼道先生から言われた事なんてほぼ無かった事に等しい程忘れていた。
佐久間先生はと言うと相変わらす女子にキャーキャーと言われていたがもうそれにも慣れてしまっている。
こう考えると慣れって怖い。


「それじゃあ今日はここまで、ノートをとり終えた者から終わって良し」


4時間目の理科が終わる時間。理科室に佐久間先生の声が響くと同時に音を立てて次々と教室へ帰るクラスメイト。
本当に佐久間先生の言っている事をこの人達は理解しているのだろうか?


ノートをとり終えた者から……多分守っている人はごく数人だろうけど。


まあ先生も先生なんだから少しは勘づいているだろうと思いながら今日の授業の内容がすべて書かれた自分のノートを閉じ椅子を立つ。
生徒が少ししか残っていない理科室に椅子と床がかすれる音が響くのと同時に、私の背後に足音が聞こえた。


「苗字」


「っ、 なんですか?」


ここ最近は声をかけられる事が少なくなって来てやっと落ち着いて来たと思ったのに……。
どうやら敵、佐久間先生は案外しぶといのかもしれない。


「今日の放課後の委員会の事なんだが」


「え? 委員会?」


「あれ? お前の所に連絡行ってないか?」


「来てませんけど」


そう答えれば困った表情をする佐久間先生。
頭の中で今日の予定を思い出してみるが運がいいのか悪いのか……
どちらかは分からないけど特に用はない。

最も、元々帰宅部だったし塾も行ってないわけだし、予定がない、と言うよりは予定を作れない。
と、言った方が正しいのかもしれない。


「そうか、ほら、 もうすぐ中間テストだろ?予想問題を作らないとさ」


ああ、中間テストの予想問題か。予想問題を作るならなるべく早い方がこちらにも都合がいい。
テスト期間に入ってから作るんじゃなんだかせわしない。


「それを今日やる予定だったんだが…… 大丈夫か?」


「別に、大丈夫です」


「そ、そうか。じゃあ今日の放課後会議室で」


「いえ」


この状況が羨ましいのかなんなのか、理科室に佐久間先生目当てで残ったクラスの女子の視線が痛い。
私はクラスでも大人しい方だし、あまり仲がいい友達も多い訳でもない。
だから彼女達にとったらなんで?と疑問になるのはごくごく普通の事なんだけれども。


「それじゃあ、放課後に」


「ああ、えっと、苗字」


「…… ?」


「いや、その……ごめんないきなり。それじゃあ」


何か言いたげな佐久間先生の最後の言葉にあえて反応せず理科室を後にする。
私の背には女子の甲高い声。その声はとても嬉しそうで楽しそうなものだった。


ただ心に残っているのはふと見えた先生の苦しそうな目。
きっと私に嫌われているのを自覚しているんだと思う。


その目を見た時心が少し痛くなったのはきっと気のせいだと信じたい……

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