禁断の恋。

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なんで?と言う言葉が私の胸に大きく、そして深く突き刺さった。
その後ろから聞こえた声は間違いなく同じクラスの女子のもの。要するに佐久間先生に憧れを抱いている人のもの。
いや、憧れではなく恋心なのかもしれないが。


「苗字? どうかしたのか?」


あの声によって思わず斜め下を向く私の顔。佐久間先生はどうやら私の異変に気がついたようだ。
きっと彼女達は、私なんかがあの皆のアイドル佐久間先生と歩いているのが気に食わないんだろう。
別に私は佐久間先生と似合っていなくてもいい。というかこの教師を似合っていたって何にも嬉しくない。
そんな嬉しさなんてミクロ単位以下の嬉しさだ。
ただ、普通に女の子としてクラスの輪に溶け込みたい。そんな気持ちがあるのは確かなのかもしれない。
だからクラスの中心人物の彼女達にそう言えわれ自分がすごく惨めに思えた。


「いえ、なんでもありませんから」


「そうか? でも顔色が悪い。少しの間保健室行ってるか?」


進む足を止めてそう言う佐久間先生。
この人は保健室が好きだな。あのビーカーの時だって真っ先に保健室だった。
しかしそんなのんきな事なんか考えている暇を与えない位の勢いで再び彼女達の言葉が降り掛かる。


「だって苗字さんと佐久間先生だよ? もしかして苗字さんって先生のこと……」


私は別に佐久間先生の事なんかなんとも思っていない。
違う違うと唇を噛み締めて心の中でそう叫ぶ。


「絶対そうだよ! もしかして委員会の委員長になったのも佐久間先生目当てだったりしてー」


違うのに……そう思っても、私の気持ちなど彼女達には届くはずもない。
その場でもう一度唇を噛み、目を思いっきりぎゅっと強く瞑った。
きっと彼女達の言葉は佐久間先生にも聞こえただろう。
でも、そうすればもう私に近づいてこないかもしれない。委員長もやめれるだろうか?


「苗字……」


今度は心配そうな佐久間先生の言葉が私に降り掛かった。
きっと私のことをそう言う生徒なんだって理解したはず。
佐久間先生はきっと中学生の頃から彼女達と同じクラスのなかの中心人物だったのだろう。
だったら私のような生徒を庇うはずがない。所詮先生もあっち側の人間なのだから。


「取りあえず会議室に行こう」


佐久間先生の言葉に従い止まっている足を会議室の方へ進める。
ただ先程と違うのは私達の間に会話がない事だけだった。

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