禁断の恋。

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ガチャ、そう佐久間先生が会議室のドアを開けるとそんな音がした。
大勢の生徒達の話し声や部活へ急ぐ足音がする廊下とは違いその中はシン、と静まり返っていて薄暗い。
俯きかげな私の隣で佐久間先生が電気をつけると薄暗かった私の視界は一瞬で明るくなった。
そしてそれと同時に顔を上げ、自ら口を開く。


「さっきのはなんでもありませんから。 だから気にしないでください」


心配されるだけ無駄。ううん、心配されないという可能性もあるけど所詮このお人好し教師。きっとその可能性は極めて低いだろう。
なんて冷たい事を考えそう言えば強ばる佐久間先生の表情。私にそう言われ気に入らなかったのだろうか?


「気にしないでって……そんなの無理に決まってるだろ。 困っている生徒を俺は放っておけない」


「だから佐久間先生には関係ないんです。 彼女達が言っていた事も全部嘘です……それに、先生が心配した所で何か変わるんですか?」


いじめられたら先生に言う事。困った事があったら直ぐに言う事。先生達は生徒の味方。
そんなの、全部嘘。全部奇麗ごと。
いじめを先生に言ったところでどうにもならない。困った事があって先生に相談した所で解決なんて早々出来ない。先生達は生徒の味方?……なにそれ。
味方だったらもっと私は毎日が楽しいはずなのに。いつも口だけ。味方とか生徒の為とか……そんな言葉、もう聞き飽きた。


「苗字、お前は俺の事信じてないかもしれない、完璧には解決出来ないかもしれない。 でも、1回でいい。 1回でいいから俺を信じてくれ」


そう真剣な表情で言う佐久間先生。そして何やらスーツの内ポケットか何かを取り出した。
小さい長方形の革の薄い入れ物。そしてそこからなにやら白いものを取り出すと私の前に差し出した。


「え?」


「俺の名刺。 そこに書いてあるのは俺の携帯のメアドと番号。 いつでもいい。 どんな時でもいいから困ったり辛かったらかけておいで」


「……いいんですか、生徒にこんな物渡して」



「いいわけないさ、禁止事項。 だから周りには秘密な? 勿論鬼道にも」


「……分かり、ました」


少し素直になり恐る恐る佐久間先生の手から名刺を受け取る。
背景が白の至って普通の名刺。よくドラマなんかで出てくるやつだ。
タネも仕掛けもないはずなのに今の私には、周りには秘密だけあって少し重く感じた。
そしてそれを制服のポケットに入れようとしたのと同時に私の頭に伸びてくる先生の手。
いきなりの事だったので体が反応するのが遅かった。私の頭に乗っかる先生の大きい手。
思わずびっくりし先生の方を向けば優しい表情。


「我慢は、もうするな」


表情と同じくその声は優しい低い声。
出来れば頭に手を乗っけられるなんて事されたくなく避けたかった。今にでも手を払いたい。それが本音。
ただその本音とは裏腹に体が驚きのあまり言う事を聞かないのだ。全身は心臓になったかのようにドキドキとする。


「俺はお前の味方だ」


あまりよく思ってない人にそんな事を言われるなんてなんだか複雑な気分。
だが相手は一応教師。目上の人だ。一応お礼でも言っておこう。


「その……ありが……」


だが、口から言葉を出した瞬間突然開かれるドア。


「佐久間先生ー、ホームルーム長引いちゃって。 遅れてすみません」


そして慌てて私の頭から離れる先生の手。


「あれ? 先生今何やってたんですか?」


委員会にやって来た2年生達の悪気のない質問。
そして……


「い、いや。 なにも。 さ、委員会始めか」


まるでなにか悪い事でもしていたかのように焦る佐久間先生。
ふと脳裏に浮かんだのはこの前見たニュース。



東京都〇〇中学校の男性教師××が、生徒に性交渉を求めた罪により、昨日緊急逮捕されました。××容疑者は……



まさか、そんなはずはない。
今のはただ先生と言う立場が生徒という者に対し励ましの言葉を送っただけだ。
至って普通の事。励ますのも、名刺を渡すのも、頭に手を乗せるのも、全部が普通。



いいわけないさ、禁止事項。 だから周りには秘密な? 勿論鬼道にも



大丈夫。普通の事だから。それか今回はただの偶然。私の佐久間先生があのニュースの事になるなんて絶対ありえない。
そう自分に言い聞かせ佐久間先生から少し距離をとった場所にある椅子に座った。

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