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□一年物語
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幼い頃2人で見上げた空は蒼く澄みきっていた。
【4月6日】
3年生となった私は一朗太君と同じクラスになった。
「名前さん。」
「あっ、なに?」
「これ、先生が渡してくれって。」
じゃあ今は??
色褪せてる??
ううん。
「ありがと。」
「あぁ、じゃあ。」
蒼く澄みきっているかも、色褪せてるかも分からない。
なぜならもう2人で空を見上げる事はないのだから...。
遠くなって行く一朗太君の背中を見つめながら小さく溜息をつく。
昔はあんなじゃなかったのにな。
家が隣で親同士も仲がいい。
自然と幼馴染となった私と一朗太君。
小学校までは『名前ちゃん』って呼んでくれてたのに。
『ちゃん』と『さん』そも違いが私には大きく感じられた。
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思春期だから。恥ずかしいから。もう中学生だから。
だから一朗太君は私の事を名前で呼ばなくなったんだ、と思い早2年半が経とうとしていた。
【9月23日】
3月に高校受験を控えた私達3年生は、学校生活の中の楽しみの1つの、席替えを行った。
別に誰と近くなったっていい。クラスの人で嫌いな人なんていない。
みんな同じ位好きだったから。
「やったね、名前!席隣ではないけどめっちゃ近いし!」
割と仲が良い友達と席が近くなり、斜め後ろはクラスでもお笑い担当のA君。
前の席はこれまた面白いB君。
そして...
隣の席は一朗太君になった。
【9月25日】
「ねえ、名前の好きな人ってさ、A君かB君?」
突然の友達からの質問。というかなんでその2人?
「違うよ、でもなんで??」
「いやー、なんか風丸が。」
「一朗太君が??」
まさかの予想もしなかった名前が出て来て少し疑問が浮かぶ。
「うん、さっきいきなり「名前さんの好きな人ってAかB?」って聞いて来て。」
「それで?」
「で、なんで?って聞いたら「俺の勘では席が近い人を好きになりそうだから」って。」
「なんじゃそれ?」
俺の勘って...。
「なんだこいつ!?って一瞬思っちゃったよ」
軽く笑ながらそう言う友達。
「だよね、」
ただ...一朗太君が少しでも私の存在を覚えていてくれた、と言うことが嬉しかった。
【10月12日】
社会の授業中...。
隣の席になってから何かと少しずづ話すようになった私達。
まぁ、名前は未だにさん付けだけど。
「あれ?ここってドイツだっけ?」
「えっと、多分そうだと、」
受験を控えた私達は公民と並行して歴史と地理の復習をしている...だけど、完璧に内容吹っ飛んでて、2人で問題と葛藤中なわけで。
「でも、ここがフランスだから...。」
というか、顔近いと思うのは私だけ?
「あっ、本当だ。俺たち完全に忘れてるし。」
そう言って少し笑う一朗太君。
俺たちっていう言葉がなんかすっごい特別に感じた。