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□危険人物
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「あ、教科書...。」


放課後、南沢は部活に行こうとしていた足を止める。
校舎を出た時に、ふと英語の教科書を教室に忘れた事を思い出したのだ。
いつもだったら面倒くさがり屋の彼の事だ、きっと『ま、いいか。』と思い教室には戻らないだろう。しかし、今回は別だ。なんたって明日の授業に英語がある。予習をしなければ先生にみっちりお説教と言ったところだろう。


「めんどくさ、」


そういいながらもさっさと階段を登る南沢。流石サッカー部のエースストライカーだ。足腰が鍛えられているせいか階段を上がるスピードが衰えない。


ったく、なんで忘れちまったんだが。
大体、なんで明日英語あんだよ。日程考えた教師誰だよ...。


と、最終的には教師のせいにしたが、まぁそこが彼らしい。








ガラガラガラ......


教室のドア開ければ、つい先程まで賑やかだったせいかとても静かに感じた。


「はぁ、」


軽く溜息をつくと早速自分の机に向かう南沢。


「お、あった。」


『English』と書かれた教科書を鞄に詰め込む。
そして教室を出ようとした時だった...。


「あれ、南沢?」


「苗字、」


教室のドアのところに立っていた人物...。
苗字名前。
南沢と同じクラスの女子だった。


「なんだよ、お前も忘れ物か?」


「ってことは南沢も?」


「まぁな、」


南沢がそう言うと名前は小さく笑った。
クラスでも目立っている名前と南沢。
しかし、2人が直接こう話した回数は数える程度。
決して多いとは言えず、むしろ少ない方だ。


「へー、歩く18禁でも忘れ物するんだ。」


「うっせーよ。」


意地悪っぽい表情をする名前。
こういうフレンドリーな性格が、クラスで目立つ理由なのかもしれない。


「苗字はなに忘れた?」


「あぁ、私?んーと、筆箱と下敷き、」


「下敷きとか別になくてもいいだろ。」


「私には必要なの!あ、あとは英語の教科書。」


「えっ?マジで?」


「うっうん、そうだけど?」


きっと苗字と同じ物を忘れたからだろう。
南沢はそれだけの事で少しだが親近感が湧いた。
正直、南沢自身も目立つ存在の苗字ともう少し近づきたいと言う気持ちもあった。
今回の事はそんな南沢にとってラッキーな出来事に違いない。


「俺も英語の教科書忘れたからさ、」


「あっ、そうなんだ。」


「俺たち、気が合うかもな。」


「それだけで?」


「あぁ。」


そんなドヤ顔で言われても...と、今の苗字は思っているだろう、いや、思っているに違いない。
南沢に至ってはなにか共通点を探すのに必死になっている事が第三者からみれば見え見えだ。


「あのさ、」


「ん、なに?」


「メアド教えろよ。」


「なんで命令口調?」


名前の問いかけを無視し、ポケットから携帯を取り出し直ぐさま赤外線モードにする南沢。
その行動に対して名前は『まぁ、いいけど。』と大人の考えで自分のポケットから携帯を取り出す。


「あ、私の赤外線の場所ここね。」


携帯の上部を指差しながら自分の携帯を南沢の携帯にかざす名前。


「苗字ってさ、彼氏いんの?」


「いきなりその質問?...いないけどさ。」


「へーじゃあ俺にしとく?」


「は?あんたバカ?」


軽くあしらわれた南沢。
このような事は彼にとって始めての事だろう。
なんたって、常に色気を醸し出し女子に異様なほどモテる南沢。
そんな彼が女子にあしらわれる事なんて今まで1回もなかったのだから。


「じゃ、私部活行くから。」


メアド交換が終わったのと同時に教室を出て行こうとする名前。


はっ?さっきのスルーかよ。


と、少し不満を抱く南沢。



「今日メールするからな。」


「うん、分かった。」


どんどん小さくなって行く名前の背中を見る南沢。
そして少し怪しい笑みを浮かべた。


「さて、どんな方法で落とすか...。」


そんな事を考える南沢篤志は


危険人物


(お前って性格いいよな。)

(そう?まぁ、少なくともエロ沢よりはいいかもね。)


その夜、南沢が名前をメールで落とそうとしたがまたもや軽くあしらわれた事は言うまでもない。
 

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