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□恵方巻きに願いを
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「拓人君は何鬼を退治するの?」
「拓人君は泣き虫鬼だよな。」
「ら、蘭丸君!よしてよ...!」
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「そういえばそんな事もあったね〜。」
2月3日の昼休み。幼馴染みの拓人と蘭丸と一緒に屋上で3人揃って北北西を向いてお弁当を食べていた。
いつもはこうして3人でなんて食べないんだけど...なんでも拓人のお母さんが恵方巻きを作ってくれたらしい。
それもご丁寧に重箱に入れてある。さすが神童家だ。
え?なんで北北西かって?なんでも今年恵方巻きを食べる時の向きだから。ってさっき蘭丸が言ってた。
「やめてくれ名前、昔の事を掘り返すな。」
「でも神童、退治出来てないだろ?」
「う、うるさい...!」
そういえばこの前だって感動系の映画を見てたらうっすら目に涙溜まってたな。
やっぱりいつの間にか身体は私より大きくなっても拓人は拓人のままなのかもしれない。
「あ、こう考えてみると、蘭丸と拓人はなんでお互い苗字呼びになっちゃったの?」
「なんでって言われてもな...まぁ、簡単に言えばある一種の成長だな。」
「成長?あ、もしかして蘭丸は私が成長していないとでも?」
「そ、そうじゃなくて...神童...。」
「俺に話を振るな、んー、そうだな。男子限定の成長だ。」
意味が分からないと2人に言えば、そりゃお前は女子だからなと軽くあしらわれた。
「でも屋上で北北西ってなんかやだなぁ...。」
「あー確かにな、雷門の屋上だと壁を向いて食べる事になるからな。」
私と蘭丸がそんな事を言ってれば拓人が、文句言うな、と言いながら黙々と恵方巻きを食べていった。
「拓人は嫌じゃないの?」
「別に、ある意味新鮮でいいんじゃないか?」
「お前の新鮮さが俺にはよく分からないよ。」
私も蘭丸と同じ意見だ。拓人はどこかずれているのかもしれない。
それでも今まで喧嘩など色々な事があったがこういう風に仲がいいままでいられるなんてこれこそ腐れ縁と言う物だろうか?
「えーと、彼氏が出来ますように!!」
「な、なんだよいきなり。」
「え、お願いごとだよ、蘭丸。恵方巻きを食べるときにはそうするもんなんだって。」
「へー、じゃあ...神童の泣き虫が治りますように。」
「なっ!どう意味だ霧野。」
「そのまんまさ、神童もやれよ。」
恵方巻きを食べながら拓人にイクラが入った恵方巻きを渡す蘭丸。
あれ、イクラ入ってるのなんてあったっけ?私食べてないや、いいな拓人。
「俺はいい。」
「そう言わないの拓人!」
「わ、わかった、じゃあ…...霧野がちゃんとした男子になりますように。」
「は?俺!?」
仕返しだ、と言いながらそのイクラの恵方巻きを食べる拓人。
きっと蘭丸は見た目が女子っぽい事を気にしてるからそこを仕返しの材料にしたんだろう。
「まぁでもこれで皆の願いは叶うんじゃないかな!」
「だと良いけどな。」
「まず俺の願い事は叶うか分からないけどな、見た目なんてそう変わる物じゃない。」
「いや、俺は今成長期だ今年こそ背ももっと高くなって男っぽくなるはずだ。」
恵方巻きに願いを
(拓人!蘭丸!大変だよ!!)
(どうした名前?)
(恵方巻きを食べ終わるまでに何かしゃべると願い事叶わないんだって!!)
(え、神童。俺たち何かじゃべったか?)
(...しゃべったな。ちなみに霧野は『は?俺!?』って言ってたぞ?)
その年も、私には彼氏は出来ない、拓人の泣き虫は治らない、蘭丸の見た目は女子のままでした。