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□春には笑顔で...
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「先生、やっぱり私多分無理だと思います。」


目の前にいる赤く綺麗な目をした佐久間先生にそう言えばその目が少しだけ驚いた様に大きくなった。
先生の手にあるのはこの前の全国模試の結果。先生の眉間に皺が寄った。


「偏差値全然足りないし、成績はどんどん下がってるんです。勉強、手抜いてないのに...。」


そういい終わると、ジワリ、涙が滲んだ。
担任の先生の前で泣くなんて私はなにをしているんだろうか。成績は下がるは、泣くはでこれじゃあ迷惑ばっかりかけてしまっているではないか。


「苗字、お前が毎日頑張っているのは俺もよく知っている。何か思い当たる事とかないのか?」


先生にそう言われ必死で脳をフル回転させたがそんな事分からない。
結局頭をブンブンと2回横に振っただけだった。
どうしても成績が下がった理由が分からないのだ。
受験直前に成績が下がるなんてもう最悪だ。


「そうか...、でも志望校変えたくないんだろ?」


「...はい。でももうどうしたら良いか分からなくて。なんかもう勉強なんかしたくない...。」



「っ、」


「頑張っても報われないし、それどころか落ちるだけだし。もう嫌だよ先生。もうなんか死にたいよ。」


目に溜まった涙がスーと頬を伝わると同時にすすり泣きに変わった。
本当は死にたくなんてない。ただ、誰かに慰めて欲しかった。
大丈夫だ、お前なら絶対合格するって。
だからその言葉が出てくるのを信じこうして佐久間先生に相談したんだ。
なのに...


「それじゃあもう受験なんかよせ。」


「っ!」


先生の口から出てきたのは慰めの言葉や励ましの言葉とは無縁の物だった。
冷たく言い放たれれ身体が硬直した様に動かない。


「そんな事でうじうじ泣いてどうするんだ。」


「だ、だって...。」


「言い訳するな。」


佐久間先生に相談したのが間違いだと気づいたのはこの時で、自分を強く責めた。
なんで佐久間先生になんかしたんだと、そう思えばなんだかそんな自分に対してなのか。それとも佐久間先生に対してなのかは分からない。でも頭に血が登ったように、怒りが込み上げる感情に襲われた。


「苗字、お前はだいたい」


「分かりっこない。」


「は?」


「先生には私の事なんて分かるわけない!聞いたよ、先生、中学の時頭良くて運動も出来たんでしょ?そんな完璧な人にそうじゃ無い人の気持ちなんか分かるはず無い!分かって欲しくもない!!」


教室に私の声が響けば一瞬シーンと静まり返る。
そうすればハッと我に返り両手で口を覆う様に抑えた。


「あ、先生...すみ、ません...。」


「完璧、か」


「ほ、本当にすみません、私、何言って...」


「苗字は俺が完璧に見えるか?」


「え?...あ、はい。」


手を口からどけそう言えば佐久間先生から小さく吐息が漏れた。


「完璧なんてないんだよ、苗字。」


「で、でも...」


「受かるよ、」


私の反論を防ぐかの様に先生から出た1つの単語。
先生の表情は先程とは違いどこか柔らかい。


「ごめんな、さっきはきつい事言って。大丈夫、苗字なら受かるさ。」


「佐久間先生...。」


「分からない所があったらいつでも聞きに来なさい。」


ニコリ、そう微笑んだ佐久間先生は優しい口調でそう言った。
先程あんなひどい事を言ってしまった自分が嫌で嫌でなんだか恥ずかしい。


「落ちたと決まった訳じゃ無いんだ、お前なら出来る。今は辛くてもきっと春には笑顔でいられる。」


ジワリとまた涙が滲んだのが分かった。でもそれは言うまでも無く最初とは違う意味での涙。
私の頭に手を置き優しく髪を撫でる佐久間先生。なんだかそんな先生がつい愛しく見えてしまう。


「後悔しない様に精一杯しなさい。後悔ほど辛いもにはないんだ。」


「先生っ...!」


「うを、」


そしてその気持ちを抑えきれず先生の胸板に飛びつく。ふんわり良い匂いがした。


「こら、離れなさい。」


「...嫌、もう少しだけだから、お願い先生。」


「はあ、ったく。分かったよ...少しだけだからな?」


やったと心の中でガッツポーズをし、頬を先生の胸板に甘える様にスリスリしてみる。
刹那、背中に違和感を覚えたかと思えば私の身体は佐久間先生によってぎゅっと寄せられた。


春には笑顔で...


(卒業式の後、教室で待ってなさい。)


受験、諦めたらそこで終わりなんだ。

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