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□ゆびきりげんまん
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スーハーと、軽く深呼吸をし心を落ち着かせる。
目の前には『雨宮太陽』。そう書かれたプレートと白い大きめのスライド式の扉。
意を決しその扉をコンコンと2回ノックすれば中から『どうぞ』と言う声が聞こえた。


「あ、苗字さん。」


「うん、久しぶりだね雨宮君。」


そう、今日はクラスメイトの雨宮太陽君のお見舞いに来たのだ。
クラスメイト、と言っても雨宮君はこうして入院しているため体調がいいときにしか登校しない。
だから今まで数える程度しか話さなかったものの、なんだか彼の優しさや無邪気さ、そしてサッカーに対する思いに心が引かれてしまったのだ。


「今日は一人なの?」


「うん、ちょっと…。」


「ちょっと?どうかした?」


ベッドに横たわっていた身体を起こしながら質問してくる雨宮君の顔を直視出来ない。
それは私が雨宮君の事を好きだからなのか、それとも今から言おうとしている事のせいなのか。
ふと脳裏のかすめたのは昨日の昼休みの友達との会話。


『試合に出て欲しくないよ、私。』


『なんで?名前雨宮君がサッカーしてる所好きって言ってたよね?』


『そう、だけど。でも、でもさ…。試合出たら身体に影響するんだよ?』


『あ、そうか。』


『そんなのやだもん。でもこんなの我がままかもしれないけど雨宮君のサッカーしてる所も見たい。』


『難しいね、でもその気持ちを雨宮君に言ったら?変に奇麗な言葉並べるより全然良いって!』


友達の言った事は正しい。でも、本当にそんな事を言って良いのだろうか?
試合には出て欲しくない、でもサッカーをしている姿は見たい。
そんな我がまま、今を必死に生きて、必死にサッカーをしている雨宮君に言ったら失礼なんじゃないか?


「あ、あのね雨宮君。」


「ん?」


「えっと…本当に試合出るの?」


「うん、今回はなんだかすっごい出たいんだ。」


「そっか。」


雨宮君が笑顔でそう言えば余計に言い辛い。


「なんか元気ないね、何かあったの?」


「え?そうかな?」


「うん、だって苗字さんって笑顔って印象だし。」


「笑顔?」


私がそう問えば笑顔でこくりと頷いてみせた雨宮君。
私は神様を恨む。どうしてこんなにもサッカーが好きで優しくいい人を病気にしたんだと。
世の中には法律違反したり、犯罪を起こしている人なんて沢山いるのに。
なのに、なのに何故雨宮君がこんな思いをしないといけないんだろうか。


「だからさそんな思い詰めたような顔しないでよ。それか、やっぱり何かあった?」


「あったというか…なんというか…。」


「良いから言ってみてよ。」


きっと雨宮君は今から私が言おうとしている事なんて想像もついていないんだろうな。
試合に出ないで、でもサッカーしている姿が見たい。こんなの矛盾の固まりだ。


「あのね、雨宮君。」


でも、言わないと自分自身にそれに雨宮君に嘘をついているような感覚に襲われる。
もうどうにでもなってしまえと、もう雨宮君に嫌われてもいいと、そう思い口を開いた。


「試合に、出ないで欲しいのっ…!」
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