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「霧野君ってやっぱかっこいいよね!」
「顔だけね。あくまで顔だけ。中身は最悪だから」
「えー!?優しいと思うけどなあ」
「ないない、ちょっかい出してくるし、しつこいし、バカとかアホとかばっかり言うし」
「それ名前の事が好きなんじゃないの?」
「ないない。絶対にないね。というかもしそうでも嬉しくないから」
ある日の帰り道。友達がいきなり私の幼馴染みの蘭丸の話を振って来た。
しまいには蘭丸が私を好きだと?ないない、だって蘭丸はかっこいいし、意地悪だけど優しいし、サッカー上手いし。
それから……あ、ううん。前言撤回。あれは顔だけ。優しくもないし、なんともない。
そう心の中でぼそぼそと言いながら霧野蘭丸を全否定。
「そうかなー?私は絶対に好きだと思うんだけど……」
「それはあんたの妄想に過ぎないからね」
「妄想って酷い言い方じゃない。まあいいけど……あ、もうばいばいだ。 じゃあねまた明日!」
「うん!ばいばい」
結局妄想でよかったのかい!とまたもや心の中で突っ込みを入れる。
なんだか一人でこんな事を考えているなんて悲しい。が、周りには誰もいない。
一人の帰り道。頭に浮かぶ友達の言葉。名前の事が好きなんじゃないの?
ありえない、と首を大きくぶんぶんと二回横に振る。
男女からも人気でまるでアイドルみたいな奴が私なんかの事を好きな訳が無い。
「絶対にない、絶対にない」
そう暗示をかけるように小さい声でぶつぶつと呟く。その時だった。
「俺ってさ、お前から見たらそうだったのか?」
「え? って……ら、蘭丸!?」
そう私が言えば少し苦しそうな笑顔で少し笑いかける蘭丸。
その表情はなんかのドラマに出てきそうな感じだった。
「な、なんで蘭丸がここにいるの?」
「お前が前歩いてるの見えたから。その、ごめん。会話全部聞こえた」
「え!?」
まずい。最悪だ。蘭丸に嫌われる。それだけは絶対に嫌だ。
好きな人に嫌われるなんて絶対に避けたいのに……
「俺だけだったのか?名前の事好きだったの」
「あ、いや……そうじゃなくてね。だからあれは……」
あれは嘘でした。なんでそう言えないのだろうか。本当は私も蘭丸の事が好きですと。
自分の気持ちなのに上手くコントロール出来ないのが辛い。
蘭丸は言ってくれたのに、好きだ。って。
……え?す、き……?蘭丸が好きって言った?
いや、でも違う。きっと蘭丸の好きは幼馴染みとしての好きであって恋愛の好きではない。
そうに決まっている。そう勝手に解釈し言葉を続ける。
「あ、あのね。あれはちょっと調子に乗っちゃっただけで、別に蘭丸の事が嫌いとかではなくて。 あ、べっ別にす、好きって分けでもないからね?」
ああ、なんて事を言ってしまったんだ。その言葉を言った瞬間の蘭丸の表情の暗さ。
「あ、いや……だから」
「やっぱり好きだったのは俺だけか。自信あったんだけどな」
どうすればいい。必死になって考えるがどうも答えが出てこない。こういう時に自分の頭の固さに絶望する。
ただ、一言、好き。と。私も好きだと言ってしまえばいい事なのだがどうやら私にはそれがとてつもない高い壁らしい。
が、ここは勇気を振り絞ってもう失敗しても構わないという勢いで口を開いた。
「あ、その……別に嫌いでもないし。というむしろ、あれだよ。私は蘭丸にホの字ですよって言う事っていうか」
「え?」
「だ、だからそう言う事であって別に嫌いとかそう言う事じゃないからって言うのかな」
ああ、もうぐだぐだだ。なにかホの字だ。なんで私はちゃんと好きと言えないんだ。
心の中で思っている事が上手く言えないってこんなにも辛いだなんて想像もつかなかった。
思わず唇をぎゅっと噛み下を向く。しかしブルーな私とは似ても似つかないような明るい声が上から降って来た。
「ほ、本当か?」
「え?」
「ってことは俺たち両思いって事、だよな?」
「え?あ、そうなる……のかな?」
話が半分読み込めないまま適当に返事をするとぱっと表情が明るくなる蘭丸。
と、ここで私も100%話を理解しその状況に胸がドクンとなる。
またそれとは反対に少し後悔。もう少しロマンチックに女の子らしくちゃんとした言葉で告白すれば良かったと。
流れはスムーズではないし雰囲気もまったく0なのだ。
だが蘭丸はと言うとそんな事どうでもいいらしくとても嬉しそうな表情で私にこう言った。
「これからよろしくな、名前」
「べ、別にこれからとかなくない?も、元々幼馴染みだった訳だし」
最後の最後でも素直に慣れないなんて本当に私は馬鹿だ。大馬鹿者だ。
ただ蘭丸の笑顔をみると何もかもがどうでも良くなってくるような気がした。