禁断の恋。
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今日の四時間目の理科の授業は正直辛かった。
昨日の事も有り佐久間先生から強い視線を送られるは、実験は同じ班の人に押し付けられるはで本当に良い事が無い。
それでも最後の五分間だけ佐久間先生がいなかった事は嬉しかった。なんでも鬼道先生から呼び出しを食らったらしい。
その呼び出しの内容関係なく今の私にはとても嬉しい事だ。
「苗字さん、片付けお願い出来るかな?」
「その、あたし達用事があって。」
「……用事って?」
それは理科の授業が終わった時だった。さあこれからお昼だと言うときに同じ班の人からこんなお願いを受けたのだ。
用事とか言っておいて本当は実験の片付けがめんどくさいだけに決まっている。
「えっと、ほら! 宿題とか?あ、あと五時間目の予習とかさ」
「ね? だから頼むよ苗字さん!頭良いんだしさ」
片付けに頭の良さなんて関係ないような気がするがそんな事をこのずるい彼女達に言っても馬鹿馬鹿しい言い訳が返ってくるだけだろう。
そう思い『分かった』と短く返事をすれば彼女達はキャッキャッと言った感じで理科室から出て行ってしまった。
その際『苗字さんってホント騙しやすーい』だとか『頭良いくせに本当は馬鹿なんじゃない?』などと聞こえたがそんな事を気にしてる場合じゃない。
この大量の実験用具、一人で昼休み中に片付けられるだろうか?
カチャンカチャンとビーカーが触れ合う音、蛇口を捻ればジャーと水道から水が勢いよく噴出された。
五時間目の授業開始数分前でやっと終わった実験の片付け。大量のビーカーが入ったトレイも棚に無事置く事が出来、これならなんとか授業に間に合いそうだ。
ふう、と安心のため息を漏らし水道で手を洗いながらやり残しは無いかと理科室をざっと見回す。
「あ、ビーカー」
しかし案外予想とは的中するもので他の班の片付け忘れだろうと思われるビーカーがなんとも寂しそうに机に放置されている。
めんどくさいなあ、と思いながらそれを手に取ったところでふと後ろの方から足音が聞こえた。
誰なんだと瞬間的に後ろ振り返れば先程鬼道先生に呼び出しを食らったはずの人物。なんでこの人が今ここにいるんだ。
「っ、一人なのか?」
「……そう、ですけど。 佐久間先生はどうしてここへ?」
「あぁ、理科室に教科書忘れちゃってさ。お、あったあった」
お目当ての教卓の上にあるらしきその教科書を取ればもう一度私の元で寄って来た。
なんだかこの人と二人きりというのはどうも苦手だ。なんだかテンションが狂う。
「他の奴は? もしかして片付け、押し付けられたのか?」
「っ」
「どうなんだ?」
「別に」
反抗的な態度を取っている事くらい自分でもよく分かった。
なんでこんなにも佐久間先生に対してだけこうなのか?やはり毛嫌いしているからなのか?
「別にじゃないだろ?俺はお前を心配して……」
「やめて下さい」
「え?」
「そう言うの、やめて下さい」
なにが心配だ。誰にでも良い顔しやがって。こういうタイプの教師が一番あの事件の容疑者になりやすいに決まっている。
さっきからじりじりと私との距離を縮めてくる佐久間先生。なんだか気持ちが悪いと思い一歩二歩と後ろに下がった。
「苗字、お前はどうして……」
「来ないで、ください」
別に佐久間先生はそういう気はないと思うが、私は最近教師、という生き物に対してものすごく敏感になっていると思う。
それはあのニュースを観て以来の事で……ああ、なんであの朝テレビをつけてしまったのだろうか。
「どうしてそんなにも俺を避けるんだ」
「だ、だから来な……あっ……?」
「苗字……!」
ぐらっと揺れる身体。足に絡まり引っ張られる黒い実験用具のコード。
そして目の前には大量の透明なグラス……いやビーカー。そして背中に走る大きな痛みと衝撃。
すべてがスローモーションに見え、刹那ぎゅっと堅く目を瞑った。
何が起こったのかよく分からない。でも何やら身体を凄い力で引っ張られなんだか安心した心地になった事は間違いなかった。