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□神社の神様
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「ちょ、先生待ってください!」
「早くしろ、時間が足りなくなる。」
なんなんだこの人は。
今日は1月1日でもなくまたは2日でもない1月9日。
どう考えても初詣にしては少し時期が遅くないか?
「鬼道先生っ、お願いだから待ってくださっ...」
「っばか、何やってるんだ。」
「だ、だって。」
神社の段差にローファーの先がつっかえてしまい思いっきり前に倒れそうになってしまった。
が、それを鬼道先生が間一髪受け止めてくれたのだが...この体制は教師と生徒ではまずいんじゃないか?と言う感じだ。
「せ、せんせ...」
「まったく、この位で教師にときめくな。」
「なっ!」
「早くお参りして学校戻るからな。」
「わ、分かってます!」
2学期とても勉強に力を入れた私。
でもなぜだか分からないけど数学だけがまさかの赤点。
そしてまさかのまさかで冬休みの補習、と言う訳だ。
「誰も居ませんね。」
「まぁ、今日はもう9日だからな。」
「その9日に初詣に行こうと言い出したのは誰でしょうね、しかも補習を抜け出してまで。」
「ふっ、さあな。」
そう言いながらもお賽銭箱に五円玉を入れ手を合わせる。
今年こそは成績が上がりますように、それと...良い恋が出来ますように。
「おい、いつまで祈ってるんだ。」
「いっ、良いじゃないですか!」
「はぁ、で?何を願ったんだ?」
「先生、知ってました?お願いごとを人に言うと叶わなくなっちゃうんですよ?」
少しむすっとした表情の鬼道先生に『そういう先生はなにを願ったんですか?』と追い討ちをかけるように聞く。
刹那、頬に冷たい感触が感じた。
「えっ?」
「教えてやろうか?」
「な、何をですか?」
「聞いたのはそっちだろ?」
これは一体なんなんだ...。
なんで鬼道先生の片方の手の平が私の頬にあてがわれているんだ。
「そうですけど、それより顔、ちっ近いです...」
あと数センチでキス出来てしまうのではないかというくらいの距離がなんとももどかしい。
そんな事はお構いなしの鬼道先生は親指で少し感想気味の私の唇をゆっくりなぞってみせた。
「先生...。」
一言で言ってしまえばぞくっとするような指の動き。まさに大人って感じがぷんぷんする。
やらしいです、鬼道先生。
「名前、」
普段の鬼道先生からは想像のできないくらい低めの甘い声で名前を呼ばれる。
苗字じゃなくて名前を、ここは凄い重要だ。
「え、あ...」
じりじりとこれでもかと言うくらいに近づいてくる先生の顔。
生徒にこんな事していいのか?犯罪にならないのか?とも思う行為。
そう言えば鬼道先生は先生でありながら帝国の総帥だった。
そんな事を思い出せばこんな行為の一つや二つ、見つかったってもみ消してしまうのではないか?
だったらこういう事はしてもいいんじゃないか?いや、やっぱり駄目か。
「目、閉じろ。」
あぁ、これは完全にキスするつもりだ。
覚悟をして指示通りに目を閉じる。もう少しで私のファーストキスは奪われるんだ。
が...いっこうに唇に感触がないのは気のせいだろうか?
普通キスと言うものは数秒で終わってしまうものじゃないのか?
「もう行くぞ、」
「へっ?え?」
目の前にはさっきのやらしい鬼道先生ではなくいつもの鬼道先生。
なにが起こったのかさっぱり分からない。キスはどうなったのだろうか?
「あ、先生、だから待ってください!」
よくわからないまま先にすたすたと階段を降りていく鬼道先生の背中を追いかける。
確かにあの時先生は言った『目、閉じろ。』と。
少女マンガを参考にすればあの雰囲気は絶対にキスの雰囲気そのものだったはず。
「鬼道先生、あの、さっきのは...」
階段を降り、人気のない道を2人で並んで歩く。
「先生!」
聞いてもなにも反応しない先生にしびれを切らし強めの口調で呼べば急にグイっと身体が横に引っ張られる。
「ちょ、せんs...ん、」
1秒、2秒、3秒、一瞬だけ時間がとまったように感じた。
そして一瞬だけ私と鬼道先生の距離が0になった。
「あ、先生...?」
距離が0から離れていくのを感じながら口を両手で覆う。
されてしまった、私、先生にキスされてしまった。
「名前、知っているか?」
「な、なにを...」
「神社でキスをすると神様が嫉妬してその二人は結ばれないそうだ。」
「え?」
「だからさっきはしなかった、ただそれだけだ。」
「あ、ん?え?」
よくわからず焦っていれば『行くぞ、』と今度はさっさと一人で行ってしまわないで私を待ってくれている鬼道先生。
もしかしたら、初詣のお願いごとをはもう叶っているのかもしれない。
神社の神様
(先生、それってもしかして私と結ばれたいの?)
(さぁな。)