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□来年にかけて
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「苗字、誰か待っているのか?」


「えっと、その...凉野君を!」


私がそう言えば、え?と声を短く漏らす。
ちらりの彼の手に過可愛らしい紙袋などがない事を確認すればやっぱり噂は本当だったのかと思う。
なんでも凉野君はバレンタインにチョコを受け取らないらしい。南雲に理由を聞いた所甘い物が苦手とかなんとか。小学生の時は受け取った物のそれは南雲とあと基山が貰って食べていたらしい。女の子達に一言ご苦労様ですと言ってやりたい。それでも南雲や基山だってモテるのだから毎年それなりにチョコは貰うはず...。凉野君の分も食べるなんてカロリーの取り過ぎじゃあ...。


「私に何か?」


「今日、バレンタインでしょ?」


「...言っておくががチョコは貰わないぞ。」


相変わらず冷たいな、と。しかしその言葉はもう想定済み。だからクーラーボックスで頑丈に教室の暖房からこれを守ってきたのだから。


「チョコじゃないよ、はいこれ。」


「...苗字、これはなんだ。」


クーラーボックスごとそれを差し出せば一気に眉間に皺を寄せる凉野君。予想通りの反応だがこれだったら絶対に受け取ってくれるはず…。なんたって凉野君の親友である南雲のアドバイス通りに作ったのだから。
脳裏に南雲が言った言葉が浮かぶ。『風介は甘い物は苦手だけどアイスは話が別だ。』だから昨日家に帰ったら急いでアイス作りに取りかかったのだ。


「いいから開けてみて。」


眉間に皺を寄せたままクラーボックスのチャックを開け中からアイスがはいったパッスを取り出す凉野君。先程まで怪訝な表情だったのがそれを見た瞬間ぱあっと明るくなり驚いた表情に変わった。


「苗字、これはアイスか?」


「そうだよ、あのね、凉野君。」


「私にか!?」


「うん、そう。だから私ね、凉野君の事。」


「ありがとう苗字。しかも苺味まで。」


「うん、そう苺味も。あ、でね凉野君のこと好きなんだけど。」


「チョコ味もあるじゃないか、ああ、私もすきだよ。アイスを作れるなんて最高じゃないか。」


「え、嘘でしょ。え、あ、アイス?」


「そうだ、アイスだ苗字。これでいつでもアイスが食べれる。」


「あの、凉野君?それってつまり...」


「じゃあな苗字。アイス家に帰って食べる。」


「え、ちょっ!待って、え、待ってよ...。」


流石サッカー部。クーラーボックスを抱え込んで猛ダッシュで駆けていき、その背中はどんどん小さくなるばかり。
これは喜んでもいいのか?一応は受け取ってくれた。それも喜んで。しかも私も好きだと言ってくれた。でも、凉野君の好きって...。


「はあ...。」


出るのはため息。なんだったんだあれは。凉野君は私がアイスを作ってくれる。だから好きになったと言う事なのかも知れない。というかそれしか考えられない。
来年もアイスで勝負しようかな、と心の中で思うのだった。


来年の為に


(来年はもっと凄い奴つくってやる...!)

(そして本当に好きにさせてやる...!)
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