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□勘違いと我慢とキスと
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不動君は2年生の秋に転入してきた。
隣のクラス、ましてやあのサッカー部で鬼道君といい勝負という理由からかは分からないけど彼の噂は瞬く間に校内に広まった。


「へ〜、で?キスとかもうしちゃったわけ?」


「まっ、まだに決まってるじゃん。」


「まじかよ、俺だったら付き合った瞬間食らいつきたいんだけど。」


「それは佐久間君がおかしいんだよ。」


今まで不動君の事でお世話になったし一応報告しなければ!
そう思いこの昼休みを利用し少しニヤニヤしている佐久間君に話したが、
『良かったな。』
などと言う温かみがある言葉なんて全く出てくるはずもなく。
それどころかキスだのなんだのと思春期の男子が考えそうな質問ばかりされるはめになってしまった。


「おかしいって...。まぁおめでとうだな。」


「うん、本当にありがとうね。」


「いいっていいって。さて、不動にはコンドームの1つや2つでもプレゼントするかな。」


「ばっばか!」


悪戯っぽい表情を見せた佐久間君にそう言えば、『嘘だよ。』と言い返された。

.
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「不動君?」


帰り道、2人して横に並んでたわいのない会話して...。
小さな事だけど実はすっごい憧れでもあった。


「えっ、あぁ...。」


「どうしたの?ぼおっとしてるよ?」


「いや、なんでもねぇ。」


横にいる不動君の顔を見ればなんだか悩んでいる様なそんな表情をしている。
私といても楽しくないのか?
そんな考えが一瞬頭を掠めたが、相手は自分の彼氏だ。
そんなはずがないと必死に否定した。


「だったらいいんだけど。」


「悪いな。」


そう短く返事をされただけだった。
今思って見れば私だけがバカみたいに話していた。
不動君は聞いているのかいないのかさえ分からない位になんとなく返事をしているだけだった。


「じゃあ、俺こっちだから。」


「えっあ、うん。ばいばい...。」


それは別れ際まで続いていて少し期待していた


“家まで送ってもらう”


なんて夢のまた夢だと思ってしまった。


.
.
.
.


「悪い、今日は1人で食べたいんだ。」


隣のクラスのドアの所で罰が悪そうな顔をした不動君にそう言い放たれた。
つい数十秒前、自分のお弁当をもって不動君の所へ真っ先に向かった。
彼氏と一緒にお弁当を食べる。
誰もが一度はしてみたい事だとおもう。


「ごめんな。」


絶対に食べてくれると思っていた。
だから断られた時の悲しさは大きく膨れ上がった。


「分かった、じゃあまたね。」


しつこいと嫌われちゃうかもしれない。
一緒にいたい衝動を抑え、自分の教室に戻ることにした。


「佐久間君。」


「あれ?お前なんで教室いんの?てか不動は?」


「ふられた。」


「はぁ!?」


源田君とお弁当を食べている佐久間にそう伝えれば唐揚げを持ったまま軽く叫ばれる。
クラスの皆の視線が一瞬にして集まったけど今はそれどころじゃあない。


「どういう事だよ!お前ら付き合ってまだ数日だろ?」


「だって、一緒にお弁当食べたくないって。」


「お弁当?」


「そうだよ!お弁当!!不動君、私の事嫌い、なのかな?」


ついシュンとなってしまい肩を落とす。
それとは裏腹に佐久間君は「なんだ、別れたわけじゃないのか。」
とか、源田君は「まぎらわしいな。」などと少し軽い言葉を吐かれ余計に気分が沈んでしまった。


「佐久間君、どう思う?」


「どうって...相手はあの不動だからな。元々女子に対してはクールだし。」


「だから好きになったんだよ、私。」


「分かった分かった、それは何回も聞いた。」


「うん、何回も言った。」


訳の分からない会話をしていればふと横から源田君が会話に入ってきた。


「苗字、聞いといてやろうか?」


「え?なにを?」


「だから不動に苗字の事どう思ってるんだ?って。」


「え?いいの?源田君!」


よく源田君はサッカー部のお母さん、と聞くがこういう気が利く所がそうなのかもしれない。
だから女子にもモテるんだと思う。


「じゃあ今日の部活の時に聞いとくな。報告は明日の朝だ。」


「ありがとう、本当に源田君はお母さんなんだね!」


満面の笑みでそう言えば源田君は「それは教室ではあまり言わないでくれ」と少し照れていた。
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