medium。

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「ただいま...って、名前!?」


「あ、おかえりヒロト。」


「まだ起きてたの?もう2時だけど...。」


「うん、最近会えてなかったから、その...寂しかったな、なんて。」


目の前に居るすらっと伸びた高い背丈の人物、吉良ヒロトにそう言えば、俺も寂しかった。と言われた。


「最近、仕事が忙しくて。」


「しょうがないよ、会社...大変でしょ?」


吉良財閥を継いだヒロトにとって、毎日が戦争なようなものである。
大量の資料にいろんな人との付き合いや交渉。部下の管理など様々な事があるもんだからここ数日は顔をまともに合わせられなかったのだ。


「まあ、今頑張らないといけないからね。でも...結婚して数ヶ月なのに寂しい思いさせてごめん。」


ヒロトはそう言い終わるのと同時に触れるだけの短いキスを私におとしてくれた。
キスの感覚が数日ぶりな為かすごく新鮮でなんだかくすぐったい。まるで付き合って最初にしたキスの時のようだ。


「ヒロト、女物の香水の匂いがするよ。」


「え?」


キスをされたとき一瞬だけ香った甘ったるい香水の匂い。私だってたまに付けるけど私が付けている物でもなければ、けっして柔軟剤とかそう言った匂いでもない。


「ヒロトの匂いじゃない。」


「名前、嫉妬?」


「そ、それは...、」


久々に会った事によってどんどん欲が膨らんでいくのが分かる。
そりゃ誰だって新婚なのに旦那さんとなかなか会えないなんて寂しいと思うのが普通だろう。
しかも会えたと思ったらその旦那からは香水の匂いがするのだ。嫉妬もするし心配だってするのは当たり前だ。


「大丈夫、実は今日1人の女の社員の不注意でその人の香水の瓶が割れてしまったんだ。それで匂いがうつったんだよ。」


「...本当?」


「本当だよ、嫉妬するなんて可愛い事してくれるね。」


そう言いまたキスを落とすヒロト。
また直ぐに離れると思ってなんだか寂しいな、なんて思えば私の気持ちが伝わったのかどうかは分からないけど、口の中に熱を帯びたヒロトの下がねっとりと侵入していた。


「ん...、」


何日ぶりかの大人のキスに身体が感覚を忘れたのか力が入らない。
ヒロトの舌によって思考が鈍らされれば更に身体が言う事を効かなくなる。
このままじゃ保たない、そう思い背伸びをしてヒロトの首に腕を回しなんとか耐えようとしたが、それがいけなかったのか...。
考えてみれば顔一つ以上違う身長差。いくらヒロトが少しかがんでくれているとはいえやはり首に腕を回すのは背伸びが必要であって...。


「あ...、」


そして床がフローリングで滑りやすかったのも原因かもしれない。
背伸びをしよとすればぐらりと揺れる視界。離れるお互いの唇。倒れるまではいかなかったものの折角良所だったと言うのに途切れてしまったキス。体制を崩す私を、おっと、と言って支えてくれたヒロトの男らしい腕。


「大丈夫?」


「...うん。」


こんな事を引き起こしてしまった自分が恥ずかしいのだが中途半端な所でやめられてしまったキスがどうしてももどかしく焦れったい。


「ヒロト、もっと...、」


縋るようにヒロトの首に再び腕を回す。そう、今度は倒れないように。
何時もだったら直ぐにヒロトがいいよ、と言ってくれて再び再会されるのだが今日は返事がない。
不思議に思い又、返事がないのに不満を感じ眉間に皺を軽く寄せれば、急に手首を掴まれヒロトの首に回してあった腕がほどかれてしまった。


「ヒロト?」


「名前、」


手首を掴まれたまま甘く低い声でそう耳元でささやくように名前を呼ばれれがゾクとなり身体がぴくんと反応する。


「続きはベッドで、ね?」
 

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