夢
□陳腐なだけのせつなさ
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歓声とも、罵声ともつかないたくさんのおとが、遠くから近くからわたしたちに浴びせられている。
しろいスポットライト、ステージライト、ペンライト、
嘘みたいに派手な横断幕、女の子、男の子、大人のひとA,B,C,たくさんたくさん、
チアガール、応援団、審判、セコンド、タオルの白、
確かあなたを素敵だとはじめて感じたあのときも、似たような風景だった。
ただし、そのときはまだ、わたしはただの読者だったし、あなたの名前も知らなかった。
どんな結末かなんて大体、想像に違わないどうでもいい物語に、あなたの貴重な数ヵ月を、わたしがしてしまったのだ、素敵な素敵なあなたを、
だからわたしは云ったのだ、
「ねえ河井くん、」
わたしの最期のリングに上がるその前に。
「林檎?」
わたしの名前なんて呼ばないあなただから判る。
きっとわたしを警戒しているのだ。
人生をかけるにあたってわたしが、何を言い残したいのか、あなたは判っているから、
「河井くん、すきよ!」
あなたの嫌わなかったまんまるに咲いたえがおであなたに打ち放ったの、
「…男の子として、」
かわしにくいように、加速度と高低差をつけて、
「 」
あなたはことばをちいさく失って、後に、
そのきれいなかおを、わたしからすこし地面に反らして云ったの、
(ありがとう、)
あああ、そうやって当たり障りのないやさしさで、何にもなくさないように、この身体に刺し返すのね、
見栄を張った灯りがはじけてしまうじゃないの、
「こたえがほしいよ、今までのひとつ分くらいは、」
しおらしく呟いてみせたあと、放置すればあなたがかえすであろうことばをわかっていて、
「 、」
そのきれいな唇を、わたしなんかの節穴でふさいで、
「さようなら、」
ああそんなことか、
読者の期待を裏切られた嘆声が聞こえる。
物事はえてして目論みには優しくないものなんだってこと。
(大体の想像でたどり着くどうでもいい結末、)
(はいはい、すきでした、だけ、まる)
陳腐なだけのせつなさ