夢
□余命2年の恋
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「貴子さん、貴子さん」
こんなにきれいな蒼白い空にも、負けないその姿は、とてもまぶしい。
林檎が顔だけを私に向けて、両腕で天を仰ぐ。
「空がきれいです!」
「そうね」
その揺らがない儚さに息が漏れて、ことばが出なくなってしまう事がある。
私はダイニングチェアに座ったまま頬笑みを返した。
大人ぶって熱く淹れたミルクティは、まるくてせつない味がした。
彼女は、ボクサーだ。
少なくとも今は、としか言えないけれどそれは命がけの綱渡り。
闘いなんてことを、合法的に行うのだから。
「ねえ、林檎」
「?はい、」
ふぁっと振り返った林檎は、あんまりにもあどけない。逆光にそのまま取り込まれて、違う世界にでも消えてしまいそうだ。
「ボクシング、もう一度始めようかしら、私も」
無理なのは判っているけれど、正体も判らないほど愛しいこの女の子と、同じ所に立って引き留めたいと魔が差した。
「だめですよ、貴子さんは」
さっきのあどけない表情はまるでヘッドギアみたいに重く落ちて、ひどく大人びた口調で私を視ないで云った。
「貴子さん、きれいだから、」
胸が強く、とん、と鳴って顔面が冷たくなった。
ティーカップがかち、と音を鳴らす。
けれどきれいの意味が、容姿を指しているのかそれとももっと根本のことを指して、暗に自分は違うと云いたいのか、判らなかった。
そして彼女はもう一度振り返って云った。
「わたしより、強くなったら、淋しいじゃないですか!」
今度はかわいらしい方の、高い声で云った。
「そうね、あなたがそう云うなら」
そう笑って返したけれど、彼女が本当は何を考えているのか判らなくなった。
唇を見詰めていると、かすかに、確かに波を打った。
「 …」
云い澱んだ唇に、愛しさが拍車をかけて耐えきれずキスをした。
逆光の中に、真っ暗にくっきりと、触れる彼女を愛していた。
(愛して、)
(いた)
余命2年の恋