□わたしが天使になった日
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わたしはあんまり、なにかを上手に遂行できたためしがない。



小学校のときだって、男の子に混ざって遊ぶのは苦手だったし(だって疲れるし)、

今までに友達なんて、ひとりとして出来たことがなかったし(おかげで怒られたことがない!)、

ボクシング以外のスポーツをやらせればからきしだめなことばかりだし(暫定補欠要員)、

実は数学が大嫌いだし(計算なんかできる訳がない!)、

絵心なんてないし(お花畑を先生に爆発だと云われた)、

お洒落じゃないし(だってそもそも可愛くないし)、

背は全然伸びないし(貴子さんとは頭一つ差分!)

クッキーは毎回の様に焦がしてしまうし(ココアクッキーなんて焼かないのに)、

試合になったらいっぱいいっぱいで、声援を聴く余裕なんてないし(河井くんの声以外)、


案外、常に全力いっぱいで生きているというのに、ぜんぜんわたしは素敵じゃないのだ。



竜くんはそんな所が素敵なんだと言ってくれるけれど、わたしは、そんなことは竜くんが素敵な人だからこそいえるものであって、決して本当のことではないと思う。


石くんは、ぜんぜんそんなことはないと云ってくれるけれど、わたしはそれを補える様な所なんて何ひとつだってないし、第一、わたしは石くんみたいに大人じゃないのだ。


志那虎くんは、だったら強くなってみたらいいというけれど、わたしのなりたい強いっていうのがそもそも判らないし、志那虎くんの様に心までうつくしく生きて来ているような人は、こんなだらけ切った弱いことなんて、理解できないんだろう。


兄さんは、わたしのことを分ろうとはしてくれるけれど、でもやっぱり兄さんは人が自分の様にみんな強い訳じゃないって気付けないのだ。



「わたしがもうちょっと善い子ならなあ、」


「どうしてそう思うんですか」


河井くんが、きれいな黒い髪を耳に掛けながら、ブルーブラウンの瞳をくいっとこっちに向けて云う。

相変わらずとっても肌は白くて、流石北国育ちなんだなあと思う。


「わたし、だめな子なんだもん。菊ちゃんみたいに可愛くないし、貴子さんみたいにしっかりしてないし、竜くんみたいに真っ直ぐじゃないし、石くんみたいにやさしくないし、志那虎くんみたいにストイックじゃないもの…それにわたし」


「菊ちゃんと兄さんが仲良しなのが、嬉しいのに嫉妬してるの、わたしにだって好きな人がいるのに」




「…確かに、」


軽く笑いながら、きれいな顔で河井くんが云う。


「ドリンクはよく落とすし、素直にすぐ揺れるし、人に対して割り切れないし、何回教えても小学生レベルの曲は弾けないし、…石松よりも背は小さいし」

さいごの余分はちょっと悪戯っぽくはにかんで云った。



「でもね、ぼくは思うんです」


長くてつややかな髪がぴょん、と揺れる。



「こんな風に、こんな小さなことで簡単に汚れてしまいそうになる君は」


一瞬だけためらってみせた。



「…天使みたいだって」



視界に、真白な羽根がばさばさと無数に舞い上がる。




「こうやって、ぼくたちも大人になっていくとね、色んな悩み事ができるんです」

「例えば、好きな人ができたり、」


「例えば、夢がなかなか叶わなかったり、」


「どうして、自分はこんなに不幸なんだって、」



「みんな、人のせいにしたがるんです」



「自分のせいにすると、つらくなるから。…特に、人に対しての気持ちは」



背中に大きな翼が開いて、

河井くんの手が、わたしの足の上の右手に伸びる。



「でもね、きみはそれごとちゃんと自分のせいにして、判ってあげようとしてる」




すこし近付いて、寄りかかり気味に微笑む。


「大丈夫、きみは自分が思っているよりもずっと強いひとだから」



(羽根が生えたらもう、あまいキャンディを抱えて飛ぶことなんて)
(出来ないのに大人になりたいとねがった)

わたしが天使になった日

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