夢
□X染色体の憂鬱
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空があかるい蒼なのは今日だって変わらないのに、竜くんは大人になっていってしまう。
昔からあった身長差は、誕生日が過ぎるごとにひらいて、今や男の子・女の子という超え様のない倫理で鍵をかけられてしまった。
竜くんは視るときごとに男の子の身体になって、
わたしは竜くんの視ない間も女の子の身体として育っている。
わたしが竜くんの友達なのは変わらないのに、
竜くんがやさしいことは変わらないのに。
「「不屈のファイター、高嶺竜児!終にチャンピオンベルトをものにしましたー!!」」
リングの上で女の子の歓声を身体中に浴びる竜くんがブラウン管にうつる。
うしろにはわたしの知る通り菊ちゃんがいて、わたしの知っている竜くんのお友達がいて、一緒に喜んでいる。
「竜くんはそうやって、わたしの知らない人になっていくのね」
「どの女の子よりも知っているつもりだったのになあ、」
蒼い空気と空の境目に吸われて、わたしの溜息は視えなくなった。
『竜くんは、これからも夢を追いかけて行くんだね』
『うん、ここまで皆にささえられて、歩いてこれたんだ。どうあっても掴みたいんだよ』
いつもの夢を視るきれいな眼で竜くんは云った。
あああ、この眼だ。
わたしはこんな彼を視る為に、その為だけに、何年も彼の近くをはしり続けてきたのだって言うのに。
『でももし、竜くんが夢を追っていくんだとしたら、何度だって竜くんは傷つくんだよね』
『傷付いたって立てば善いんだ』
『だけれど傷付くのは、くるしいよ』
『大丈夫だよ、きみがいてくれるじゃないか』
『でもね竜くん、もしも竜くんが』
『立てなくなるような日が来てしまったら』、
もしも本当に、どうしてもどうあってもどう頑張っても立ち上れないくらいひどい傷を負ってしまったら
もしも彼がすべての力を以てして、すべてのきもちを注いだとして、何もかもが絶対に大丈夫だなんて、
それでも尚、進もうとするその身体に、
(それでも頑張れなんて、)
(わたしに云えるんだろうか、)
X染色体の憂鬱
(男の子はなにも守ってくれない)
(女の子はそれでも夢をみるのよ)
リンかけ全体がこんな雰囲気に、わたしには視える。