夢
□荒野に、ひとり
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「大丈夫よ、河井くん、」
光の漏れる通路で、彼女はかたかたと音もなく震えながら云った。
真っ蒼に涙を滲ませて、わらって云った。
「林檎、」
ぼくは上手な言葉がなくて、ただ中途半端に彼女の腕に、包帯まみれの右手を伸ばした。
彼女は動じないで立っていた。
「わたしはね、河井くん、死んだりなんてしないもの、だってもう、」
生きているのでさえ、嘘みたいなものだから。
「だからね河井くん、」
首を左に傾けて云う。
「がんばろうね、」
ぎゅうううっと握った包帯だらけの右手をぼくの左手に突き合わせたけれど、その手はひどくふるえていた。
「こわいですか、」
彼女は視線を外して云う。
「こわくなんてないよ、」
ぼくの背後から、仲間たちの足音がする。
「じゃあ行こうか、河井くん、」
そうして、潰れそうな真っ白の光と悲鳴の中に、浮ついた足を踏み込んだ。
(こうして正体の善く判らない恐怖と強迫観念に背を押されながら、)
(青春を被ってぼくらは戦うのだ、ときに命を投げ出しながら)
荒野に、ひとり
(咲いては恐怖の振動でまた、散る)
眩暈のするようなレイアウトにしたくて。