□お揃いのままわかちあう
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ころころころころ。


ついさっき袋から出したオレンジ色のまるいキャンディが口の中でころがる。


ころころころ。


しびれるような甘酸っぱさを残して口の中を移動する。


ころころころころ。



口の中を削ってキャンディが躍る。




「みかんの香りがするわ、」


貴子さんのつりあがったきれいな形の眼がしっかりわたしを見つける。



「キャンディです、安物ですけれど」


「私にもひとつ、頂戴よ」



白く差しだされた手にビニールの包みを置いた。




「はい、どうぞ」



パリパリと、プラスチックの包みをねじる音がする。


ころころころ。



「あまい、けど甘酸っぱいのね、これ」




鈴が鳴るみたいなお嬢様の声で貴子さんが云う。



「はい、ちょっと酸っぱいですよね、ずっとなめてると」



わたしはこの甘さに溶け飽きて、丁度目の高さにある貴子さんの唇を見詰めていた。




ころころころころ。




形も善ければ色だって熟れたての林檎みたいにきれいな紅色が、わたしの口の中と変わらず、移動する度にもごもごとかすかに動く。


(ほんとうにきれい、)

ころころころころ、



自分の中にキャンディのあるく音だけが響く。




さっきからちらちらと視線のぶつかったブルーブラウンの瞳があまく停まる。


「なあに、私の顔に何か付いてるの、」


ふうっとわらって、やさしくはにかんだ。




「きれいな眼と、鼻と、口がついてます、ほんとうに、」



「やだ、変なこと云うのね」



「ちっとも変じゃないです」



「そう、けれどあなたの顔にはもっときれいな眼と鼻と口が付いているわよ」



どん、と心臓がはねる。



勢いにのって眼がうるみだした。




あついあついあつい。



「それは嘘ですよ、わたしにはきれいなんてないです」



「そんなこと、ないわよ」




ころころころ。



ふふふ、と笑ってまた、キャンディを転がす時間が始まる。




ころころころころ。



何かを思い立ったように、思いきった様に、貴子さんが声をあげる。




「ねえ、林檎、」





「なんですか」




「わたし、あのね、」





「わたしね、あなたのキャンディの味が、知りたいの」





彼女は、同じキャンディなのに顔を赤くして、そんなかわいいことをせがんだ。



「え、」


何だか可笑しくて、嬉しくて、ことばを失ってしまった。






「…いや、だった、」



すこし泣きそうな顔で恐る恐る訊き返す。

「いいえ、」
貴子さんに前触れも無く居直って、ぐっと顔をくっつける。
唇で接続して、キャンディを渡した。



手を握ったら、ぎゅっと下に押し戻されて、より一層つよく握り返した。





「こっちはもっと甘いのね、」


唇だけを離して、貴子さんが云った。



握られたままの両手は脈を打って通じた。




(所詮、わたしたちの侵襲の限界はここ、)
(繋がるってこういうこと、)
(ああ、このキャンディがDNAならいいのに)

お揃いのままわかちあう

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