夢
□こわれない希望を信じている
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どんなときだって、夢とやらを追いかけていられるかれの背中は、とてもまぶしい。
そのくせ、隣にいるだいじな人の手も忘れないで握っていられるだなんて、羨ましくて直視ができない。
「今日も練習、がんばっていたね竜くん、」
「そうかな、試合が近いから、」
今日は真夏だというのに、もう空は真っ黒になってしまった。
あかるいジムの中で、白いタオルで汗をぬぐう彼に云う。
「そっか、今週末だね、試合、」
「うん、」
どうあっても、弱さも含め自然体なのがかれの凄い所だと思う。
「林檎ちゃん、あのさ、」
「なに、竜くん、」
ながい睫毛を伏せて云う。
「試合、視に来てくれるかい、応援しなくても、いいから、」
かれはすこしはにかみながらかわいらしく云う。
「もちろんよ!応援に行く!」
わたしは身を乗り出してまで云う。
「竜くんは、とってもがんばっているもの、きっと勝てるけど、」
「そうかな、がんばっているのは皆一緒だと思うけど、」
「それでも、竜くんには敵わないわ、」
「云い過ぎだよ、林檎ちゃん、」
はは、とちいさく笑いながら云う。
正直なところ、わたしは本音しか云った覚えがないのだ。
ちいさな頃から竜くんは、だいじな菊ちゃんのために、おかあさまのために、生命を何回も投げ出しながら、こんなにつよくなったのだから。
「ほんとうよ、菊ちゃんやおかあさまもそう思っているはずだもの、」
「そうかい、林檎ちゃんに云ってもらえると、自信になるなあ」
汗を拭く手を休めて、竜くんが肩をすくめる。
少しとおい眼をしていた。
だけど、
「これから、一体俺はどこまで登れるんだろう、」
こんな風に夢を視ているきらきらの澄んだ眼が、いちばんのかれの眼なのだ。
「どこまでだって往けるよ、」
「どこまでだって往けるかな、」
「きっとね、」
「きっと、往けるかな、」
「うん、きっとだいじな皆に善い報告ができるよ、」
「出来ると善いなあ、」
「うん、あしたも全力で応援するからね、」
「ありがとう、俺、絶対に勝つよ、勝って、もっと強くなる、」
その眼はもうわたしを視ていないけれど、こんなにかれを好きなのはしあわせなことだった。
(眩しいのはきっと、愛情や好きとはとおいのかもしれない、)
(それだけかれを判ってあげられないかもしれない、)
(でもかれが善いという限り、)
こわれない希望を信じている