夢
□適当に追い詰める
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「そうやって、かっこよく見せようったって、わたしは騙されないんだから、」
初めてであったときの、彼女の眼を、ぼくはきちんと憶えている。
ぼくは、自分の外見がその辺の男の子よりは整っている自覚があるし、騒がれるのだって云うほど嫌いではない。
性格だって、べつに歪んでいる訳じゃないと思うし、2択されたら、悪くはないんじゃないかって思う。
ボクシングの方だって、知っての通りぼくは地元じゃもちろん、チャンピオンカーニバルでは準優勝の、文句なんてそうそうない腕だとも思っている(し、だれにも負けない自信ならある)。
家柄だって善い方だし、生活にも人生にも不自由した記憶はない。
不得意なことだって、特別には何もなかった気がする。
だから、ぼくはべつに他意があってこれからチームメイトになりうるであろう、チームメイトの妹である彼女の、初対面からのひどく不信的な表情を変えようとした訳ではないのだ。
「べつに、そう云う訳ではないんです、」
「嘘だよ、わたしのことなんか知りたくない癖に、」
どうあってもそっぽを向いて、ぼくに取り合わない彼女はこう云った。
「……………」
「第一、」
ぶん、と音のしそうな勢いで彼女がぼくを視る。
「わたしをしって、どうするのよ、」
いままでより、すこし真剣な顔で、すこしあまい声で、声を荒くした。
だから、ぼくは模範解答を頭の中で探して、彼女を傷つけない様に、素敵な言葉をつむぎだした。
「きみを、すきになるためです」
(彼女の呼吸は、こんな判りやすい嘘で停まった)
(そう、こうして彼女は駄目になって行った)
「ほんと、」
適当に追い詰める