昨日

□残像もなく
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「革命だって、天馬たちならきっとできるよ」





こんな曇りの肌寒い日にびしょ濡れの制服を揺らして林檎は笑った。



どういう訳か、サッカーに興味のないはずの林檎は、俺やサッカー部の皆への周りの目が変わろうと、変わらず俺たちを応援してくれている。





「ありがとう、俺、きっと、なんとかなると思う、皆がまだサッカーを好きでいるなら、」




そう自信に満ちて言うと彼女はそうね、とはにかんだ。




「じゃあね、天馬、ここまで、」



すっかり散った桜を見上げて、林檎が俺を振り向いた。




俺の持った彼女の通学鞄を受け取ろうと伸ばされた右手には、


「ばいばい、」


「うん、林檎、また明日ね」





林檎は鞄を振り踵を返すと俺に背を向け夕日を左手に走り出した。




丁字路の分岐を抜けたのを見届けるより前に彼女は立ち止まった。



つられて俺も停止する。








あ、








大きな音の前に声が聞こえた気がしたと感じたときにはもう、目の前をトラックが通過していった。










左利きの彼女の右手首はだらんと伸ばされたまま、包帯の異常な白さにしみた気色の悪いまでの赤が夕日の赤に浮かび上がっていた。




(なんで、手首に包帯してたんだろ)
(なんで、ほっぺにガーゼを貼ってたんだろ)

残像もなく


(忽然さよなら)

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