昨日

□13年目の反抗期
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革命は、とっても刺激的だ。



わたしたちは、おんなじくらいに生まれた沢山の子供たちは、何時だって実体のない何かと、闘わされてきた。

責め立てられる様に、負けない様に、やられない様に、


だけれど、いつだって相手は視えない。

こんな、誰かに追いかけられるみたいな、狭い世界では、わたしは楽に息だってできない。



だからわたしは、サッカーがすきだ。

眼の前に敵の視える、敵と仲間の居る、闘える、サッカーがだいすきなのだ。



わたしたちは、絶えず何かと闘わなきゃいけない。

でも、わたしたちが本当に闘いたいのは、携帯ゲームでもなければ、じゃんけんでも、受験戦争でも、権力でもない。










鉄塔広場は、こんな穴場のはずなのに、いつ来たってだれもいない。

だれもいないのを見計らって展望台まで駆け上がる。

フェンスに腰をかけると、わたしの足もとには地面なんて無くって、眼の前には柵だって扉だって、文句ばかり付ける大人もいない。


ああなんか、まるでここは夢みたいだなあ、




「金原!」

「コーチ?」


すこし甲高めの、男の人の声が聴こえた。


「そこから一歩も動くな!」



鬼道コーチはそう叫んで、がしゃがしゃと、スーツ姿のまま階段を上ってくる。


「危険すぎる、早く柵から降りろ」



わたしの背後に来て、手をぐいっとひかれた。


抱え込まれたまま、床に下ろされたわたしはすこし笑えてしまって云った。


「大丈夫ですよ、わたし、こんなとこで死のうなんて思ってませんから」


「…まったく、近頃の中学生は怖いもの知らずすぎる、落ちても文句は言えないぞ」


「落ちても善かったんですけど…でもわたし、死ぬんだったら海が善いですから」


「………」






歩いて送ってくれるらしいコーチに甘えて、わたしは帰りたい所なんて別にないのに、家への道をぐるぐると辿った。



「こんな時間に何をしていた?」


「展望です」


「嘘はい……いや、そう云うことにしておこう、家族の方は、」


コーチの、わたしの周りで見る彼らなんかよりずっとしっかりした長い身体や足のシルエットがのびる。



「家族、はいないです、同居人だったらいます、」


「こうも遅いと心配するだろう」

おはようもおかえりも云った記憶のない、里親を考えながら云った。

「しませんよ、だからちょっとした家出です」


「…まったく、俺が一緒だったことも説明しておいてやる、」

「しなくって善いですから」



あの人たちにわたしの個人情報開示、ましてやこんな素敵なコーチの姿を見せるなんてとんでもない。
街燈は、お洒落でも綺麗でも何でもなく、だれにも視向きのされないオブジェクトだった。

そこに集まった虫だっておんなじだ。





わたしの家は、30階建てのオートロックのマンションの27階の、エレベーターから8つ目の、5LDKの灯りの点いたあの家だ。




「ここまででいいです、ありがとうございます」


玄関まで、と戸惑うコーチをほっぽり出して、すいすい歩きだした。




「金原、」



連絡するのと同じ声の大きさで、コーチが呼ぶ。




「何かあったらすぐに俺が駆けつける、思い詰めるなよ、」




胸がかあっと熱くなったので振り向いてすぐに走って、硝子戸をくぐった。







(あなたをすきなら、まだすこし情熱が残っていたのかもしれない。)



13年目の反抗期

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