昨日

□ロケット
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それであなたの一生のうちに笑顔がひとつ、増えるのならば







冷たい空気が、どこもかしこも流れる冬のこと。

「青砥はさ、ぼくなんかじゃどう頑張っても届かない星みたいな感じなんだ、」
多義くんが、ちょっと自嘲するみたいに言う。
反応するでもなく、申し訳程度に一応視える白い星が瞬いた。
彼の近況を思うと、わたしには格好いい激励の言葉が思いつかなくなる。

夜の空は藍色というか、感性に乏しいわたしには黒に見えた。
街の光は下の方から引き立てるみたいに騒いで、結局星を隠してしまっている。
同じ様に、彼の太陽みたいなあたたかい笑顔を消してしまうのが憎らしい。

「そうしたら多義くんは、」
このおっきな空だ、
言わないで酸素と一緒に押し込んだつまらない気休めが、胃の奥をつんと刺す。

考えているのか聴いていないのか、黙ってしまった。


都会なだけに照明だらけで暗い空を向いて、多義くんの隣で呟いた。
「わたし、そういえば昔はロケットになりたいと思ってた」
ロケットになったら、多義くんを乗せて星に届くね、
前を向いて言い切ったら多義くんは困った様な、面白い様な顔でわたしを向いたあと、
「それは面白いな、」

そういってやさしく笑った。



(こんなに陳腐で美しい空を跳ぶ)

(わたしの進路は今日から)

ロケット

(その彼方であなたに逢いたい)


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