昨日

□歯車が回る
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鬼道くんは素敵な人だ。


とっても頭が善くて、冷静で、だけれどやさしい人で、男の子らしくて、凄くサッカーが巧くて、

春奈ちゃん思いで、それでもって、仲間想いで、おでこが可愛くって、髪型がかっこよくって、

マントがびっくりするくらい凛々しくて、ゴーグルがとってもミステリアスで、

試合の最中にびっ、と前を指すあの指なんか凄く頼もしくてきれいで、

ぶわっ、と地面を蹴って空中に跳びあがるあの爪先なんてもうどうしようもない位素敵なのだ。


これは、佐久間くんが離したがらなかったのも良く判る。





「鬼道くん、」



蒼く光る午後3時の空の下に、身体に合わせて軽く揺れる青を見つけた。


心臓が、尋常じゃないくらい高く鳴る。





ぱっ、と彼の足取りが止まって何秒か周りを視たのちにわたしへ振り向いた。


「何だ、」





今日初めて見つけた正面に呼吸が止まる。





「今日も準備早いね、あ、これ、今日の予定表」





「ありがとう、ちょっと見せてくれ」



わたしよりすこし逞しい鬼道くんの腕がのびてきて、想像よりすこし小さな指がわたしの手元からA4の用紙を取る。




「…ポジション練習か…今週末の練習試合に向けて考えるとやはり…、」



鬼道くんは、わたしの斜め8センチ上で、眉を動かしたり呟いたりしながら予定表を読んでいる。


もうどうすればいいのか判らないくらいに完成されたその容姿は、視ているだけで幸せになれる。

紙さん、場所を変わって欲しいなあ…なんて。




「金原、ちょっと善いか、」



鬼道くんが、ふっと顔を上げる。

プラスティック越しに瞳がちょっと視える。


「はい、どうしたの、どこか変だった、」


わたしはきれいな彼の唇をじっとみつめていた。


「この予定表だと、ポジション練習に時間を割き過ぎているように思う。今週末の練習試合に向けて、ここの後半の30分は試合形式にあてるべきだと思う、それと…、…」




鬼道くんが紙に指をあてて、次々と指示を出していく。

わたしはそれに追いつけるように、赤いペンでそれを書き留めていく。



「…こんなところか、」



「うん、ありがとう。監督に出してくるね!」




もう開始まで大して時間も無いので、職員室に来ているであろう監督に足を向けた、



受け取ったはずのファイルが動かない。




「金原、」



鬼道くんの鋭くて低い声がわたしに向いた。




ちょっと違う所に眼線を向けて彼が云う。




「俺も行こう」



身体中の血管という血管が脈を打つ。

夢か、これは夢なのか、




「いいの、忙しいでしょ、」


やっとのことで口を開いた。


「別に善いじゃないか、」









「お前と話したいことが、あったから」




(どうしようどうしよう、)
(結婚してくださいなんて、云っちゃだめよわたし!)

歯車が回る

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