昨日

□世界の終りのゆめを視た
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「わたしね、もうすぐ死んじゃうのよ、」





胸がつんと詰まっていつも通りの声は出せなかった。





「そうか、」




鬼道くんはわたしに背を向けたまま静かに、低く云った。





ちくたくちくたく、かた、



赤いマントがよわい風に揺れて大きくふるえる。




「そうなの、」






広くてかたい砂漠の中には二人しかなくて、太陽はすこしつめたい。







ちく、たく、ちく、






「それが爆弾か、」








わたしのつめたい腕に抱かれたちいさな鉛に視線を落として云う。






ちくたく、ちくたく、






「そうよ、」








すこしぬるい風が、髪を通った。




ぱらり、揺れる音がした。










「この世界も、もうおしまいなのね、」





かなしくなって、脱ぎ捨てる。







ちくたく、たく、







「違う、終わるのは俺たちだけだ、」









遠く向うにポプラの大きなシルエットが視えるけど、わたしたちを隠さない。








「でも、この世界はわたしたちしか居ないのよ、」






かるい絶望を混ぜて放り投げる。







「そんなことはない、ここに俺たちしか居ないだけだ、」



ちく、ちく、たく、たく、








じゃり、薄い砂の層が擦れあう。





くすんだレンガ色、








「ねえ鬼道くん、」






「何だ、」





ふっ、と声に少し違う色が視えた。







「キス、したいな」









ひゅうう、



どこを通り抜けた訳でもない風が鳴る。




オレンジ色、









「善いよ、」










鬼道くんはとってもきれいな笑顔で云う。




左手にはゴーグルが握られていて、視えるはずのあかい瞳は細められたまま、睫毛を濡らしていた。








ちく、たく、ちくたく、ちくり、






わたしは鬼道くんに手を伸ばす。





じゃり、と高い音がして、鬼道くんが判らないくらいほんの少しわたしに歩み寄る。







「ありがとう、」









わたしは一瞬でさえ逃すまいと眼をひらいて、鬼道くんを視続けた。





(かっこいいなあ、)



(かなしませてごめんね、)






「さあ、」





下まぶたを紅くした鬼道くんが微笑んでいる。







ちくたくちくたくちくたく、






わたしは鬼道くんを引き寄せた、






「林檎、」






ちくたくちくたくちくたくちくたく、かつん。





あかい針としろい針が合わさった。




「林檎、あいし」







おおきな音がして、幾度目かの安いキスはまばゆくはじけ飛んだ。




(ありがとう、ありがとう、生まれて善かったと)
(さいごの最期に気付いたのよ、)
(最期まで一緒に居られてよかった、)

世界の終りのゆめを視た


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