「わたしね、もうすぐ死んじゃうのよ、」
胸がつんと詰まっていつも通りの声は出せなかった。
「そうか、」
鬼道くんはわたしに背を向けたまま静かに、低く云った。
ちくたくちくたく、かた、
赤いマントがよわい風に揺れて大きくふるえる。
「そうなの、」
広くてかたい砂漠の中には二人しかなくて、太陽はすこしつめたい。
ちく、たく、ちく、
「それが爆弾か、」
わたしのつめたい腕に抱かれたちいさな鉛に視線を落として云う。
ちくたく、ちくたく、
「そうよ、」
すこしぬるい風が、髪を通った。
ぱらり、揺れる音がした。
「この世界も、もうおしまいなのね、」
かなしくなって、脱ぎ捨てる。
ちくたく、たく、
「違う、終わるのは俺たちだけだ、」
遠く向うにポプラの大きなシルエットが視えるけど、わたしたちを隠さない。
「でも、この世界はわたしたちしか居ないのよ、」
かるい絶望を混ぜて放り投げる。
「そんなことはない、ここに俺たちしか居ないだけだ、」
ちく、ちく、たく、たく、
じゃり、薄い砂の層が擦れあう。
くすんだレンガ色、
「ねえ鬼道くん、」
「何だ、」
ふっ、と声に少し違う色が視えた。
「キス、したいな」
ひゅうう、
どこを通り抜けた訳でもない風が鳴る。
オレンジ色、
「善いよ、」
鬼道くんはとってもきれいな笑顔で云う。
左手にはゴーグルが握られていて、視えるはずのあかい瞳は細められたまま、睫毛を濡らしていた。
ちく、たく、ちくたく、ちくり、
わたしは鬼道くんに手を伸ばす。
じゃり、と高い音がして、鬼道くんが判らないくらいほんの少しわたしに歩み寄る。
「ありがとう、」
わたしは一瞬でさえ逃すまいと眼をひらいて、鬼道くんを視続けた。
(かっこいいなあ、)
(かなしませてごめんね、)
「さあ、」
下まぶたを紅くした鬼道くんが微笑んでいる。
ちくたくちくたくちくたく、
わたしは鬼道くんを引き寄せた、
「林檎、」
ちくたくちくたくちくたくちくたく、かつん。
あかい針としろい針が合わさった。
「林檎、あいし」
おおきな音がして、幾度目かの安いキスはまばゆくはじけ飛んだ。
(ありがとう、ありがとう、生まれて善かったと)
(さいごの最期に気付いたのよ、)
(最期まで一緒に居られてよかった、)
世界の終りのゆめを視た