昨日

□ガールズトークの代償
1ページ/1ページ

「林檎ってさあ、本当にコーチのこと好きだよねえ」



葵に訳知り顔満開の笑顔で云われて、わたしは真っ赤に燃える。


「そそそそそ、そんなことはあるけど!!!!!!どうして今、どうし、え、なんで??」



「ほら、今も私と話しながらコーチ視てるし」


「えっ?ええ、ああ、そうかな、ごめん自然に…」

「だからあ、さっきから云ってるでしょ、もう、林檎は全然聴いてないんだから!」

葵が頬をちょっと膨らませて云う。


「ごめん、でもどうしよう、わたしコーチが視界にいないと息ができないみたいで」


「ほらほら、だからさ、しちゃいなよ、」

「なに、なにをしちゃうの、」
だんだんと勢いを増していく葵に一歩ずつ後ずさる。


「なにってお前、することなんてひとつだろ、告…」

「やだやだやだ!まってよ水鳥さんまで!」


いつのまにかずいっ、とベンチの裏から乗り出してきた水鳥さんに口を出される。

今日も今日とて綺麗な睫毛だなあ。


「なんだ、また例のコーチの話かよ、お前ってほんっとに変わってるよなー」


「変わってるかなあ…かっこいいと思うんだけどなあ」



グラウンドの、白線ふたつを隔てた向うの赤ネクタイの王子様(わたし的な)を視詰める。


たしかに髪型だとか雰囲気だとか、ちょっとインパクトはあるかもしれないけれど、すごくすごく知的だし、妹想いの(きっと)やさしい人だし、いつだって深い所を見据えていて、冷静で、ほんとうに素敵な人なんだと思う。


「うん、確かに。あのファッションセンスで、初対面からかっこいい!なんて叫んだのなんて、世界でも林檎くらいだよ」

腕を組んで、頷きながら葵が云う。


「それは云い過ぎでしょ、葵、」


「いやあ、でもあたしだったらどっちかって云うともっと判りやすくて、アツい男が好みなんだけどなー、ああいう、理屈っぽそうなのはちょっと、」


「うーん、…ひとそれぞれなのかなあ」


「それでも、林檎は絶対に変わってると思う、絶対、ライバル居ないでしょ」


葵が譲らないで云う。


でも、よく考えたら、あのひとは嘘みたいなお金持ちの家の人で、イタリアにだって行っていたひとなのだ。


「うーん、でも、大人だしイタリアだって行ってたし、(お洒落だしセクシーだし)色々、その、恋人くらいは…」


「ええー!?ないって、林檎、アタックしちゃいなよ!応援するから!」


「無理無理!わたしコーチに嫌われてるから無理だってば!!」


「そんなことねえって、あれだ、愛のムチ、みたいな」

ベンチに寄りかかったまま、指を立てて水鳥さんが云う。


「えええ…、愛っていうか、単に眼をつけられているだけのような…」






こんなやり取りに夢中で、わたしは気付かなかったのだ。









緑色の双眸がきらりと光る。







「金原、休憩はとっくに終わっているが」














コーチが背後にいたことに。








外周は20周追加だ、早く行け、







(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!)
(怒ってる!顔とか全く見えないけど怒ってる!!)
(けどかっこいい!!!!!)


ガールズトークの代償


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ