昨日
□尾を引いて尚つかめない
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こんなにきれいなひとまとめの栗色を揺らしてはしるかれのすがたが生きるよりもずっと待ち遠しいのに、わたしはじぶんにそれが近付くことよりかれの笑顔が増えることをねがう。
「平助くん、今日もかっこいいよね!」
「林檎!ああそうだろ、わかってるけどな!」
そういってあのこに向うかれをわたしはしっていて、かれに気付かれるぎりぎりの所からすきだとさけびつづけるのだ。
「だから、平助くん好き!」
「ああ、おれもおまえがすきだよ、」
ふざけてなされるやりとりは、ただわたしをいっときのたのしさに追いやるだけで、なにひとつ解決はしない。
その、いたいことも理不尽も時代も汚さもすべてを見詰めようとする吊った緑色のめも、かんたんに傷付いてなみだをながさないきれいなしろいはだも、あんまりにもいっぺんに沢山のものを守らなきゃいけないがためにしなやかにはしる若く華奢なそのうでもむねも、
(わたしはすきなんだけれどなあ、)
尾を引いて尚つかめない