昨日
□最初からそう云えば、
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わたしはなんたって、鬼道くんがすきだ。
彼氏もいないのに、花嫁修業をしちゃうくらい鬼道くんがだいすきだ。
わたしが鬼道くんをすきだなんてとっくに知っていて、なんにも云ってくれない鬼道くんがだいすきだ。
「あれ、今日はおにぎりだけじゃないんだ、」
お昼の時間に、キャプテンが大きく広げられた盛大なランチセットを視て云う。
「うん、わたしが、時間の余裕があったから、作ってみたの、味の保証はないけど、」
そういうと、壁山くんや栗松くんや、半田くんや、みんながすこし嬉しそうな顔をする。
反面、豪炎寺くんたちあたりは微妙な顔をしている。
「金原の、料理かよ……」
「え、ちょっと、べつにわたし料理できるよ!」
「何か、怖いな……」
ふざけ顔ながら、すこし心配そうに云うのを視て、鬼道くんに云う。
「ねえ、鬼道くん、食べてみて!肉じゃがなんて、普段あんまり食べないんじゃない、」
「頂こう」
春奈ちゃんのおにぎりを片手にぼんやりとこっちを視ていた鬼道くんが、お箸でタッパーからじゃがいもをつまむ。
「…おいしい?」
静かにもぐもぐとじゃがいもを食べている所でさえ鬼道くんはかっこいい。
「うまい、ありがとう」
そうしてちまちまと、おかずを持っていくかれを視ていた。
練習が再開される頃になって、鬼道くんが云った。
「林檎、その、これから、練習のときとか、たまに、何か今日みたいに、作ってきてくれるか?」
「どうして?おいしかった?」
そういうと、かるく眼を逸らしていう。
「ああ、うまかった、」
「…それだけ?」
「何がだ?」
本気の?を口にするかれを、わたしは敵意なく追い詰める。
「べつに、シェフさんに作ってもらえばいいじゃない、わたしより上手でしょ、」
「だ、だが、昼食だとかはおれが口を出す権限はなくてだな、」
「云ってみればいいんじゃない、」
すこしずつたじろいでいくかれに、わたしは尚も続ける。
「云いたいのは、それだけ? じゃあ今度、シェフさんに訊いてみなよ、感想、待ってるから」
「……………」
くるりと向き返ってグラウンドに走り出た。
「林檎、あの、新しい陣形なんだが、お前と打ち合わせたいことが、」
鬼道くんが、クリアファイルを持ってわたしの後ろに来る。
そんなかれに、変わらずわたしは問い返す。
「どうして?」
「どうして、といわれてもだな、監督の指示というか、」
「それだけ?」
「それ……ああ、いや、まあ、そうだが、」
「じゃあ、わたしは今からおつかいなの、豪炎寺くんやキャプテンと考えておけば、」
「ま、待て!」
「行ってきます」
お財布を持って、わたしは校門をでる。
練習が終わって、わたしはゴールを片付けに向かう。
「林檎、その、手伝っても、善いか、」
てくてくと、鬼道くんが眼の前に来る。
「どうして、手伝ってくれるの?」
今日だけで、何回も何回もした問い返しに、鬼道くんはまたしてもたじろぐ。
「あ、いや、ひとりでは運べないだろうから、重いだろう、」
「それだけ?」
「じゃあ、壁山くん呼んで来て、あと染岡くん、」
「…べつに、おれたちだけでも運べるだろう、」
すこし鬼道くんがむくれて云う。
「重いから手伝いに来たんでしょう、だったらそうした方がはやいじゃない」
「……………」
つん、と視線を外して云うと、鬼道くんは溜息を吐いた。
結局、ゴールポストはふたりで会話もなしに運んだ。
さあ解散、という所で、鬼道くんがわたしのいる女子更衣室の前に立っていた。
「どうしたの、何か用、」
問い返すと、鬼道くんは2秒考え込んで云う。
「おれは、春奈に用があったから、あと、お前と打ち合わせたいことが、」
そうしてしらじらしく一呼吸置いて云う。
「良かったら、これから、一緒に帰らないか?」
「どうして、」
「ほ、方向が一緒だし、その、クラスも一緒だから、色々、その、連絡をだな…」
少し上ずった声で云うかれに、わたしはまた綺麗に問い返す。
「それだけ?」
「あ、あと、必殺技の練習にも付き合ってほしくてだな…」
「ほんとうに、云いたいことはそれだけなの?」
「……………」
「だったら、春奈ちゃんと、必殺技ならキャプテンや一之瀬くんたちと帰れば、」
「……………」
「他には、ないの、」
下を向いて反省した後、かれはエナメルバッグを乱暴に置いて、おおきな声で云った。
「おれが、」
かれが話し出すと同時に、女子更衣室と男子更衣室の扉が開いた。
「おれがお前と一緒が善いからだ!!!」
(息を呑む音が何人か分聴こえて、)
(わたしと鬼道くんが夕焼け分+αあかくなった糸でむすばれた)
最初からそう云えば、