さよならを云えなくて善かった、
□よそ見をしてまで進む、
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あああああ、わたしから云うつもりなんてそれは確かにちっともなかったけれどでも、わたしは最初から知っていたし、そもそもいけないのは生まれてきたことからし
て、じゃないのか、なんて、言い訳を聴いてくれる耳も無く、
もぞもぞと、たぶん間違いなく鬼道くんとかれの話声なんだと思われる声が伝わってくる。
けれど、何を話しているのか、盗聴器でもつけておいたら聴こえたのかもしれないけれど、
何時になったら聴こえるんだろうかと粘り強くわたしは待っている気でいたんだけれど、
結局何にも判らないので色々考えるのに飽きてベッドの方へ歩き出した。
そうしたら、手のひらサイズの携帯電話が黄緑色に光ってうーうーと震えて机の上でがたがたした。
緑川くんからのメールで、
『練習おつかれ!
↓姉さんの力作(笑)』
なんだこれ、失礼な文面だと下にスクロールしていくと、添付ファイルが見つかった。
たぶんチラシの裏なんだろうけれど、
たぶん稲妻ジャパンのメンバーの似顔絵なんだろうけれど、
たぶん本人は真面目に16人を頑張って書いたんだろうけれど、
端っこにちらちらと緑川くんっぽい筆跡でからかった文字の痕が視える。
明らかに画風の違うレーゼ様は上手だった。南雲くんか涼野くんか。
『緑川くんもお疲れ様、それは笑っちゃだめだよ!
…可愛いからまた楽しみにしてるね(笑)』
『うん、姉さん最近またパワーアップしてる!ツボった(笑)
ヒロト元気?』
『了解!
彼は元気だよー
連絡すればいいのに』
『あいつ女子並みにメール長いからやだ(-.-)』
『確かに(笑)
そっちは何時なの?
ちなみにこっちは午後の7:15』
『ええ!?
じゃあ時差あるんだ!!
こっちは夜の10時20分
ちっちゃいのを今、寝かしつけて中学生組で遊んでたとこ』
なんて良好な電波でやり取りをしていたらお夕飯のあとのおやつタイムになったらしく、
「林檎ちゃん、お菓子食べようよー」
こんこんこん、というノックのあとに、
吹雪くんの甘ったるいふわっとした低音がした。
うん、例えるとサクサクしたマシュマロみたいな。
「はあい」
携帯電話をもう一回ポケットに仕舞って、思い出した様に例の部屋を視向いて、どうでもいいおやつの時間へ足を向けた。
(こういうことが、ほんとうは楽しい、)
(こんなことだけを、視て居たい、)
(こころは少し重いけど、こころから、こういうことが今、たのしい)
よそ見をしてまで進む、