さよならを云えなくて善かった、

□あなたが紡ぎ出す前に思いだしたいことがある、
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真上の蛍光灯は、絵にすれば太陽。というのにもあんまり安い白で丸く平たくびかっと電力で反応して光らされている。こんなどうだっていいことを一生懸命考えたいくらいわたしたちは今とんでもなく冷静で、とんでもなく大きな分岐の前にいる。どんな選択肢やパターンがあるかなんてぜんぜん判らないけれど。







「なにを、はなすの」

肺の奥がぐんっと重くなる様な陳腐で軽い沈黙をぴりっと破って声を出す。



「…あのさ、」


応えようとしたのか何なのか、眼の前のかれがわたしに向けてなにか話し出す。




「おれから正しく全部、話せるなんて思わないけど、」


「なんのことを」


沸いて出た涙交じりに掴んで突き放しながらかれの眼を視る。




「おま…林檎の知らなかった、おれたちのこと、」



口を開いて云いたいことは、山ほどあるけれどこころが停まって唇も開くだけかすかに震えるだけで、なんにも漏れてこない。
あああああああ、ああああ。


だって、あれは6年も、前のこと、




お母さんは、普通にお母さんで、怒りっぽくなくって、
お父さんは、沢山お酒を呑んでわたしやお兄ちゃんを怒ったり叩いたりしなくって、
お兄ちゃんは、わたしといつも一緒にいて、サッカーをするのがとてもかっこよくて、
わたしはたのしくて、生きていて善いんだって、


そうやって、なんとも思わないで、明日が当然に、変哲もなく幸せに続いた終盤の、ときのこと、


(ああ幸せだったっけ、)
(真ん中の記憶だけ、ないの)


あなたが紡ぎ出す前に思いだしたいことがある、

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