さよならを云えなくて善かった、

□本当に元通りかって言うのは別の話でも、
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なにかあって、ひとしきり泣いたらすっきりするなんて、誰が言い出したのかそんなこと、あるはずないのに、だって泣く前にもう結論は決まっていて、わたしの中では少なくとも、






「これからどうするの、お兄ちゃんも、お母さんたちと別々なんでしょう、今、」

「まあな、でも連絡は何となく取ってるぜ、突然、晩飯の写メが来たりとかな、」

「ああそう、なの、」



あれから、ベッドを背もたれにしてもちゃもちゃとクッションやら鞄やらの柔らかさを弄びながら、急に兄妹じみて、どうでもいい話とかどうでもよくない話とかをし出した。


「何て返すの、」


「3回に一回くらい、適当に、美味かったのそれ、とか」


「そっか、」



「そういやおまえは今、どうやって生活してんの、」


「雷々軒に、住んでる」


「は?なんで、てかどうやって」


「みんながわたしのこと大嫌い過ぎて施設にぶち込まれたから、脱走しまくったら、気が付いたらこうなってた」





それは捨て猫になって1年弱経ったある日、4つ目の、東京にある養護施設みたいな所に住まわされかけたわたしは、おいて行かれて4日目と7日目と9日目と14日目と18日目と19日目と20日目に脱走を試みた。
そろそろ大人の人たちも厄介者的なカテゴリにわたしを視ていたんだと思う。

最後のチャレンジの日、結構な雨が降っていたんだけれど、これなら面倒で誰も捜しに来ないかなあとか思いながらいつも(!)通りに知っている道を全力疾走していたら、商店街に辿り着いて、開いていて人気のない、営業中かもわからないお店を見つけた。

中にはおじいさんがいて、なんでだかその人はわたしが脱走魔だと知っていて、なんでだか住まわせてくれることになったのだ。





「…なんかまじで、ごめんな、」


「ううん、お兄ちゃんのせいじゃないもんね、今はわたし、もう判るよ」






「林檎さーん、一緒にお風呂入りましょうよー!」


ドアの外から、春奈ちゃんの声がしたので、自然に出て行ったら、お兄ちゃんがうわっという顔をしたので思い返したら、ここはお兄ちゃんの、「不動さん」の部屋で、蒼井林檎は「不動さん」の兄妹でも何でもないし、ここにいたらおかしいんだって気付いたけれどそのまま向かう。

顔を合わせた春奈ちゃんは、あ、と一言漏らして軽く微笑んだ。


「ああごめん、準備してくるね、」

「はい、待ってます」


扉は最低限だけであけて、すぐに閉めた。




振り返って、じゃあねと小声で云うとお兄ちゃんは、ぴらっと左手をあげてそっぽを向いた。



(ああもう、話すの全部、あしたにしよう、)
(今日は善かった、ただそれだけだ、)



本当に元通りかっていうのは別の話でも、

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