さよならを云えなくて善かった、

□予想はしてた
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わたしには家族なんて最初からいなかったものなんだと思いたい。

本当に居なかったと忘れられたなら、わたしはどれくらい幸せな気持ちになれたんだろう。









ひとりぼっちでお夕飯をする、目前の、モヒカン男子を見下ろして云う。









「不動さん、」


「…」



「聴いてるの、不動さん、トマトです、はやく食べてください、お皿洗いたいから」




マネージャーを手伝って選手を兼ねるなんてわたしはとんだ綱渡りを選んだものだ。


お夕飯を食べ終わったたのしそうな喧騒をBGMに、わたしたちふたりだけが成立しない会話をしている。



「……」


「なんですか、はやくしてよ、待ってるのよ、」



わたしの顔をまじまじと見つめるかれを一喝に振り払うと、大人しく食べ始めた。



(あんまり視ないで)




しろいマスクの下まで透けたんじゃないかと思う位驚いた。


そのためのマスクだったのに。





たかが2切れのトマトに四苦八苦しているモヒカンのかれを見下ろしていると、かれはおもむろに切り出した。




「…おまえってさ、」






「…は、…?」



次の瞬間、違う方向を向いてヒロトくんたちと話していた筈の吹雪くんの頬杖が崩れて、こっちを向いた。



さらにコンマ2秒のち、わたしはかれからお皿とお箸をひったくってキッチンの秋ちゃんに押し付け、特急の烈風ダッシュを使って部屋に逃げた。



「林檎さん!」


秋ちゃんの声も背中に受けるだけ受けて、全力疾走した。





(善くないぞ、これは非常によろしくない!)


     予想はしてた

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