さよならを云えなくて善かった、

□どうか忘れて
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こんな風に隠れる訳は、だれかがページを捲ってくれたらのちのち明かされていく様などうでもいいことなんだけれど、

わたしはここにいることにひどい不安を生んでしまった。




本当になんでもなかったあの頃は、世界はどこをとっても幸福だと信じていたのに。






『おまえってさ、…不動林檎、って…知らねえ?』





本当のことを知られてはまずいのだ。


なぜなら、わたしはかれに出逢ってしまうと不幸に後戻りしてしまうから、








「林檎さん!」

こんこん、のあとにドアの向こうから春奈ちゃんの声がする。



「どうしちゃったんですか、木野先輩、びっくりしてましたよ、」


「ええ、うん、あああ、ごめんね、ちょっと…まあ何でもないけど、」


「…なにかあったんですか?」



「ええええとね、なにもない、何もないのよ、ああそういえば不動さんどう、ちゃんとトマト食べてた、」


「…どうも何も、不動さんと何かあったんですよね、みんなに囲まれてましたよ、何もないって云ってましたけど…」


「ううううん、いや、本当にね、何にもないのよ、別に、うん、大丈夫、何もないから、」



「そ、…そうですか、」



お風呂の準備の当番だけ告げて、春奈ちゃんは去って行ったようだった。





すっとしゃがんで、これからのことに想いを馳せる。



(あしたからどうしよう、)
(みんな知らないで居てくれるかな、)
(あのひとが何も言いませんように、)


どうか忘れて

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