さよならを云えなくて善かった、
□無理矢理とめた、
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なんだって、わざわざ視ない振りをしてきた現実を、この期に及んで突きつけられないといけないんだ。
わたしはわたしなりにちょっとだけ人生が楽しくなるんじゃないかって、人並みになれるんじゃないかって、そう思っていたのだから、だからどうしてそんな、
普通じゃないってことを思い出させるの、
かちん、かちん、ちく、たく、
頭の周りだけの空気が冷たくて、血の気が引いて云っていたのが判ったけれど、わたしはわらっていることにした。
「ごめんね、わたしたぶん、ちょっと貧血起こしちゃったの、もうほんと、大丈夫だから、」
お水を持ってきた秋ちゃんにそう答えて、わたしは座ったままわらって頷く。
「本当に?無理してない?」
「うん、わたしは元気の子だから大丈夫よ、」
本当に心配そうな顔をしてくれる秋ちゃんにはとっても申し訳ないけれど、絶対に本当を云う訳にはいかないのだった。
「じゃあ、寝るならあったかくしてね、はやく寝た方が善いよ、」
「ありがと、気をつけるね、」
といって帰って行く秋ちゃんを視ていて、まだ今日が終わっていないんだって気付いてしまうとひどく疲れた。
今日はもう何にもしないで寝てしまうとして、寝たらそのうち来てしまうあしたがほんのすこし、すごく、怖くなった。
時計の短針がぴんと立っても、来るんじゃないかと思っていたあのひとはやっぱり来なかった。
「蒼井、大丈夫だったのか、心配したよ、」
朝の練習に出ると、キャプテンが、真っ先に声をかけてくれた。
それを視て鬼道くんも駆け寄ってくる。
「元気が戻ったみたいで安心した、」
相変わらず瞳はちゃんと視えないけれど、やさしそうなその顔がわらったのでわたしもすこし安心した。
「大丈夫か、」
鬼道くんはほんのすこし首をかしげて、わたしに訊いたけれど、
「大丈夫だよ、」
わたしはそんな好意をわざわざなかったことにした。
(そう訊かれたらそう答えるのがセオリーで、)
(こんな日常をあんまり変えないでほしいのだ、願わくば明日からも、)
無理矢理とめた、