さよならを云えなくて善かった、

□あんまりにもちいさなミスから、
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そうしていたって視えているあなたのすがたは、間違いなくあのころとは変わっていて、でも間違いなくあなたであって、全然違う時間を生きたけれど、わたしにとってのあなただって変わって行きつつもあったのだけれど、







かれは真帝国で会ったときから変わらない、きれいなパス回しをして、今までよりすこしずつ楽しそうにサッカーをする。


だからってわたしがかれとしっかり向き合うことなんて、たぶんもうできない。





「ねえねえ、ちょっと訊いてもいい?」


休憩時間のあつい耳に、吹雪くんのとろとろのかっこいい声が飛び込んだ。


「、なあに、どうしたの、」



二つ返事でわたしが請け合うと、吹雪くんはすこし周りを気にしながら、くっとわたしの手をつかんだ。


「どうしたの、なに、何処行くの、」



「大丈夫、ちょっとごめんね、」


わたしを視ないで、前を向いて吹雪くんは、やっぱりちゃんと「そういう」気持ちはないようだった。








外れの静かな森は、ジャパンのだあれもいなくって、静かで涼しい。
その入り口で、かれは口を開いた。



「あのね、ちょっと訊くけどさ、」


「うん、」



何を訊かれるかなんて予想していない訳じゃないけれど、




「不動くんのこと、あのね、僕、全然ちゃんと聴いてないけど、なんか、えっと、一昨日の夜、不動くんが云っていた、不動林檎ってだれ、あれからじゃない、林檎ちゃん、おかしいの、ちょっと変だってみんな思ってるよ、」




やばいやばいやばい、


心臓がどんどん鳴って、頭がつめたい。


なんて云ったらいいの、


言葉は出てこない。





「あ、のね、」



「うん、」





「それはね、あのね、」



どんどん危うくなっていく。




「………」


「……………」



「あのね、………………」






という所で、吹雪くんがちゃんと察してくれたみたいに、なんかごめん、また今度で善いや、と申し訳なさそうにわらった。

わたしは弱気にかれを見詰めて云った。

「ごめんね、あの、」


「いいよ、気にしないでね、無理しないで、」




どういう訳だか、あのきれいな笑顔で吹雪くんが云う。



「ほんとに気にしないでね、帰ろっか、」

「うん、」





そうして適当に自販機に寄ってアセロラジュースを買ってわたしたちはグラウンドに戻ったのだった。



どうしたのって皆に訊かれたけれど、ちょっと火遊びを、って応えておいたら話がそれて云ってくれたのでわたしは適当にわらっておいた。



(一息ずつ一息ずつ、でしか話はできないけれど、なんて)
(訊いてくれる人だっていないのに、わたしは模索するの、)
(結局見付からないけれど、)


あんまりにもちいさなミスから、

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