あなたとの距離
□知っていたけど、
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とっても賑やかな喧騒に、白熱灯色のオレンジのひかりがぱっぱっとひかる。
提灯は赤くて、法被の青は軽く鮮やかだった。
誰かと比べられたくなくてわざと諦めた浴衣の代りの、お祭り色のワンピースは思いのほか熱気でべたべたになった。
(高い靴でなくて善かった!)
別段お目当てなんかないのでわたしは気ままにふらふらしていた。
一番最初にみたらし団子を買った。
好奇心に負けてミニスイカを買った(邪魔になった)。
水風船は4つ捕れた辺りで、お店の人に申し訳なくなって辞めた(ラベンダー色が捕れなかった)。
金魚すくいの出目金は、その辺の子供にあげた(どうせ兄さんに怒られるだけだし)。
ざわざわと、人がわたしと反対方向に流れて行く。
(ああ、花火だっけ、そんな時間)
ついさっき、殉兄さんとおそろい!なんて馬鹿なことを云いながら衝動買いした、鬼みたいなポップなデザインのお面のお店の裏へ出る。
(ここは人がすくなかったはずだ!)
、という皮算用の期待に反してどうやら先客がいたみたいで、街路樹の周りのベンチ代わりは埋まっていた。
その先客は、わたしが世界で何番目かに幸せになってほしいとねがうふたりだった。
「ああ、花火よ!」
「そろそろですかね、」
しゅうっ、
「わあ、上がった!」
ぱあん、…どん!
そうして光も影も、大きなひとつになる。
ぱん、ばばばばば、ぱらぱら、
お面の向うの背中はひとつで、違う腕が二つ見える。
期待通りの花火の大きな開花を、わたしは回り込んだ屋台の裏の、ビルの陰からわたしは一歩も動かずに見ていた。
夏の夜風は、案外冷たいのだということを知った。
(勝ち目がないどころの騒ぎじゃないの、)
(まさかこんなに切ないとは、)
知っていたけど、