カルピスみたいにまっしろな、
□プロローグ、
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俺は、生まれて初めてそれらしく恋をした。
何となく、異性に対して綺麗だ可愛いだのと抱いたことはあったし、幾度となく彼女たちと、そんな風になる妄想をしたこともある。
その出来事に、何も題名が付くことは、なかったけれど。
にいさんの荷物棚の側面に貼りつけられた手術の日程表が風にちいさく音を立てたので、俺はそこに眼を配せる。
「凄いじゃないか、京介」
俺が来るまでベッドの上に起き上がって号外の新聞を読んで居たにいさんがぱあっと興奮した顔で俺に微笑みかけ、頭を撫でる。
何度も俺は照れくさくて笑うだけだけれど、実際の所泣くほどうれしかったのだから気分は最高だ。
一昨日、俺の初めてのホーリーロードが終わった。
それからだって、何度もここにきているのに、にいさんはその度に俺を褒めてくれる。
あの試合の、あのシュートが、あのトラップが、連携が、化身が、と、最後は格好よかったぞ、と締める。
恥ずかしいくらいに俺想いな、にいさんの気遣いを尻目に、俺は明後日の、松風と西園と狩屋と影山と、何故か行くことになった駅前への買い物(という名の密かな打ち上げ)に着ていく服のことや、再来週に控えた中間テストに想いを馳せていた。
そういえば金原や空野は、先輩マネージャーたちとバッティングセンターに行くらしい。
サッカー部なのに、何故だ。
「京介、そう云えばにいさん、手術の日、ちょっと早まるかもしれないって、本当にちょこっとだけど」
「本当に、」
控えめにそう話し出したにいさんの眼を視て、俺はもう一度、手術の日程表を視る。
日にちとしてはまだ3カ月ほどあるが、なるほど最初に書かれていた日付よりも5日ほど早まっていた。
にいさんにまつわるあのせつない事件とその取り巻きの苦労を考えると、それはとても感慨深いものだった。
だけれど俺は、運命的な出会いのおかげで、好きなものを何一つ失わずに済んだのだ。
なんて幸せだろうか。
「にいさん、ほんとうに、よかった、また、一緒に、」
霞んであつくなる視界の上から、にいさんが、なんでお前が泣くんだと笑った。
(近い将来、これは違う表情で想起される)
(くらべものにならない、いたみと一緒に)
プロローグ、