カルピスみたいにまっしろな、

□きみは俺のためにさえわらう
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「京ちゃん、一緒に帰ろうよ」


「京ちゃんって呼ぶな」






「いいじゃない、京介って何か古風すぎ、京ちゃんの方が可愛いでしょう」


俺が初めての練習に出た日、金原はこんなことを云った。
幾度も馬鹿にするなと突き返す俺に折れず、未だに俺を幼稚園の頃のあだ名で呼び続けている。





今日は週明けの一日目、大会が終わって初めての部活動らしい活動だった。

走り込み位はしていたけれど、ボールを蹴り合う久しぶりの感触にこころの躍る一日だった。


着替えが終わり、鍵当番に最後を任せて、明日のユニフォームをロッカーに放り込んできたところで金原に声をかけられた。


実の所、声をかけるのはただの通過儀礼みたいなもので、毎日決まってどちらともなくお互いを何となく、待ち合わせていて、結局はどう転んでも一緒に帰るのだ。




「京ちゃん、必殺技はもう新しく考えないの、」

「当分は今使える必殺技を確実にする方が大事なんだよ、あと京ちゃんはやめろ、」


なんだかんだで俺の速度にきっちり付いてくる金原はアスリートの端くれなんだと実感する。



「京ちゃんは、わたしとの必殺技は考えてくれないの、」


もう訂正する気も失くした。


「そもそもポジションが違うだろ、」

「そんなの、天馬くんもキャプテンも違うじゃない、そもそも、円堂監督の時代なんか、GKの監督とFWの豪…あ、ちょっと、聴いてよ京ちゃん!」


毎日の日課として思い出したように携帯をひらいた俺は、いつの間にか金原の2歩前にいた。



「…優一さん、元気?」

かるく携帯をのぞきこむ様な仕草で、金原が訊く。



「ああ、手術の日取りが、決まったらしい」

俺がすこし口角をあげると、金原は突然、はしゃぐように笑った。


「ほんとに!!よかったじゃない!!サッカー、できるかもしれないんだね!!」


こいつをすきだとかすきじゃないとか以前に、こうやって大事な人のことを喜んでくれる人がいるのはとても幸せなことだ。
確かに、正直な所こいつは、そういうことに関しては悪い奴ではないと思うし、そこが長所でもあるんだろう。

手を叩いて、くるくると回るこいつの滑稽なまでの喜びようを、今日にいさんに会ったら報告してやろうと思う。

というか、



「おまえも、今日、来るか」

「いいの!?」


「おまえの時間が善いならな」


金原は右手首の腕時計をぐいっと視た後、顔を上げた。

「…まだ6時半だよね、…一緒に行って善い?」


「…好きにしろ」





(こんな日の高い夕暮れは、切な嬉しい)
(やっぱり好きなのかもしれない、)
(けれどもうそれでもいい)

きみは俺のためにさえわらう

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