カルピスみたいにまっしろな、
□すきだと密かに決心する、
1ページ/1ページ
にいさんに、10年後の俺のことを話したら、いつものようにやさしくわらって、応援しているよと、頭を撫でてくれた。
「京ちゃん、作文書けた、」
「一応、」
「…そう、」
あれから2週間ほど経ち、俺は早い所適当に書きあげた文章を先生に提出しようとしていた朝、金原が何かを胸に抱えてやってきた。
俺をじっと、控えめに伺ってはいるが何も云い出さない。
視た所、抱えている薄い冊子は課題の様だ。
「何の用だ、」
隣の席に椅子を向けて、俺は距離を詰める。
「あのね、ちょっと頼みごとで、」
俺の机に金原は自分の課題を広げると、黒字でこまごまと書かれた文章の空白を指差した。
「京ちゃん、ここに何か書いてよ、わたし、視ないから、書いたらそのまま提出してきて」
「は、」
指差した場所には、金原りんご と女子と男子の中間くらいに丸いボールペン字で書かれていて、その横には定規で引いたらしい直線がのびていた。
「…わかった」
(まあ悪ふざけか、)
とは思いながら、この手紙をあけるときに俺の隣でこれを視て、京ちゃんの馬鹿、と俺を軽く叩いて笑う金原の姿を妄想しながら、シャープペンですこし書き足して、空いた空白には適当に稲妻のマークを書いておいた。
気になるのかさり気無く、ちらちらと俺の手元を覗こうとする金原から、腕を壁にして守り抜くと全力疾走で提出した。
先生が、怪訝な顔で俺から課題を受け取ったあと何故かほほえましい表情で頷き、肩に手を置いて背中を押された。
「京ちゃん、何を書いたのよ、」
例の、部室棟への道すがら、金原が俺を視上げて訊いてきた。
「別に」
「ああ、もしかして何にも書かなかったんじゃないでしょうね、」
「大丈夫だ、そこは安心して10年待ってろ」
「馬鹿ね、京ちゃん、わたしの文章が優秀だったらコンクールで読むのよ、掲示だってされるし」
「ないだろ、」
「そうとも限らないわよ、わたし、なんたって優等生だし、」
「なんちゃって優等生の間違いだろ」
「失礼ね、」
「冗談だよ」
「あ、」
「京ちゃん、行こう」
眼の前に視えた他の一年生集団に気付き立ち止まると、無意識につないでいた手を離し、金原は走りだした。
俺も渋々小走りになった。
着替え終えてグラウンドに出ると、音無先生が俺を手招きで呼んだ。
訳知り顔で先生は俺の脇腹を小突く。
「剣城くん、視たわよ、」
何をですか、と云い掛けて思い当たる。
油断はしていたが採点をしなくてはいけないのだから当然のことか、
「あなたたちって、実際の所どういう関係なの、」
にんまりと笑いながら先生が、腕を組んで俺に問いかける。
「どうって、云われても、そんな、別に、」
「あら、でも好きなんでしょう、あんなこと書いちゃって」
上から俺を視るようにふふんと云い切る。
「い、いや、本当にそんな、何にも」
「早い所、伝えちゃいなさいよ、先生も協力するから、ね、金原さんの作文はコンクールには出さないことにしたから、」
「え、そこまで云うなら俺、消しますよ」
「いいの、本人の希望だから、誰にも見せたくないって」
そういうと先生は頑張ってね、と云った後せつなそうに笑って
この真意を知るのはもっと先のことだと、輪郭もつかめないままに何となく感じた。
(一向に俺は彼女を知れないまま、時間は過ぎる)
(急ぐように駆ける)
(走り込む列を視て、俺は急に考えた)
すきだと密かに決心する、