カルピスみたいにまっしろな、

□名前を付けた
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何となく自覚し、悶々と、彼女と俺の関係性について考え続けていると、なるほどただの異性同士ではありえないほど近くで生活していることに気付く。


朝、彼女と一緒に朝練に行き、一緒に教室へ向かい、一緒の教室で、隣の席で同じ授業を受け、同じ時間に一緒に昼食を取り、一緒の部活へ一緒に出て、一緒のユニフォームを着て一緒にサッカーをする、終われば一緒の道を通り一緒に帰る、気が向けば一緒に寄り道をする、そんなライフスタイルを思い返すと、俺はおかしなことに気が付いたのだ。

これでは一日中彼女と居ることになるじゃないか。


確かに彼女も俺も、別の相手と話したり何かをたくらんだり考えたり、つねに密着しているという訳ではない。

違和感はないけれど、これは紛れもなく世では恋人同士がとる生活パターンだ。






俺はひっそりと、金原に告白でもしてみようかという決心をした。



女子は、一体何を云われたら喜ぶのだろうか、などと考えながら、俺はまた彼女と同じサイクルでの生活に潜り込むのだった。








「金原、」

「なあに京ちゃん、」



倒れるんじゃないかと思うほど動悸がする。


「今日の帰りは、………その、…………誰も誘うなよ、」


意を決して吐いたことばなのに、金原は眼を一瞬見開いた後笑った。


「京ちゃん、今日は素直なのね、わかった、二人で帰ろうね、」



いつものように、部室棟の更衣室前にさしかかると、金原は手を振って女子更衣室に駆け込んで行った。








時計は午後の6時10分を過ぎた所だ。
とっくに着替え終えてしまった俺は、校門前でひとり、いかにも待ちぼうけなんてしていないと云った顔で携帯をかれこれ15分はいじり続けていた。


金原は、誰も連れずに一人で走ってきた。

「京ちゃん、ごめんね、先生に止められちゃった、」



「別に善い、帰るぞ」

「ごめんね、」



隣の金原に眼を配せると、やはり何かを察しているのかどこかぎこちなく、なかなか口をひらかない。



「…京ちゃんが帰るぞ、って云うと何だか、一緒の家に帰るみたいね、」


ふふふ、と笑っても俺の方を視る動作がいつもと違うのが判る。





「金原」


俺がふと足を止めると、金原も足を止める。

「京ちゃん、どうしたの」


すこし早口につよい語感で金原が云う。



「今日、二人で帰ろうと思ったのは、云いたいことが、あったからで、」


「云いたいこと?」



すぐそこまで来ているのに、金原の眼を視ると、傷つけてはいけないと、何かがきちんと栓をして、云いたい言葉が出てこない。

今、でなくては、

今でなくてはだめなんだ、



「京ちゃん、」


金原が、心配そうに、不安そうに俺を視る。


「っす、好きだ」


「え、」


ぱっと眼を見開き金原が訊き返す。


「京ちゃん?」



「だ、から、俺と、かの……付き合っ、て、ほしい、」


「………」


意外なほど詰まることばに、二呼吸置いて金原が答えた。



「宜しくお願いします、京ちゃん」

満面の笑顔で云うので、実はこのシチュエーションからしてキスのひとつでもと考えていたが諦めた。



「あ、ああ、宜しく、金原、あ、いや、あの、」



「京ちゃんって呼ぶんだから、りんごって呼びなさい、フェアにして、ね、」



彼女の方が敬語なんて云うものだから、俺まで余計な所を指摘される羽目になった。



「ありがと、」

りんごが俺の左手に手を伸ばす。



「じゃ、帰るぞ、りんご、」



「京ちゃん、決まらないね」


笑って俺の頬を突くりんごの顔は薄ぼんやりとしか見えなかったが、俺が背後の同級生軍団に気付くことはなかった。




(ああきっと、今は幸せだ、)
(どの加減のつよさで手を握ればいいかなんて、)
(しばらく前からは考えもつかない、)




名前を付けた


(恋、と、)

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