カルピスみたいにまっしろな、
□ふたつめの初夏にあたり、
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あれから、何となく進んでみたり喧嘩してみたりを繰り返し、俺たちは2年生になった。
「京ちゃんは、何か役をやろうと思っている?」
りんごが訊いて来たのは、今年の文化祭に向けたHRの話し合いの結果決まった、俺たちのクラスの出し物のことだ。
本当は劇と、喫茶店と、出店なんて案が出ていたのだけれど、女子チームの余りに強い押しに他の人間が折れる形で決まったのだった。
それから話は急速な速度で展開し題目は「ロミオとジュリエット」に決まった。
そのときりんごは苦笑いして俺を一瞬だけ振り返った。
「折角だしロミオ、やればいいのに」
「どうせなら、役じゃなくて裏方が善い、俺は」
「京ちゃん格好いいのに勿体ないじゃない、」
りんごが頬を膨らませていかにも残念そうに強く云う。
「馬鹿云え、お前以外の女子とラブシーンなんて、冗談じゃない」
「わたしより可愛い女の子だったら見応えもあるわね、」
りんごが前を向いて、眼を閉じて澄まして笑う。
「そんな奴、いない」
俺が向き様に額にキスすると、りんごは少し間をおいて、はにかむように云った。
「じゃあ、やっても善いよ、」
「何を、」
りんごは、恥ずかしそうに顔を赤らめて微笑んだ。
「ジュリエット、京ちゃんがロミオをやるんだったらね、」
恋や友情に命をかけて熱くなり、最終的に真実を知らずに死んでいくロミオの純粋さは、俺の人物像とは遠くかけ離れていたが、それに加え条件としてりんごがジュリエット役となることで誰も反対する者は居なかった。
「ねえ京ちゃん、」
体操服で、LTの練習にふけっていると休憩中にりんごが台本を抱え困惑した表情で俺の元へ来た。
「どうした、」
「ここ、」
今日新しく改変されたものらしい。
りんごの指差した所を視ると、仮死状態になったジュリエットをロミオが視付ける場面で「ロミオ、ここでジュリエットにキス←実際にすること!」と書き足されていた。
俺たちがこういう配置になったことで面白がった周りの取り巻きの仕業なのだろう。
流石、なんて粋なことを…いやいや。
「京ちゃん、やっぱりこういうの、見せびらかすみたいでわたしは嫌」
「そうだな、俺が云いに行って来る」
「ありがとう」
結局、幻のキスシーンは(残念ながら)お蔵入りとなり、引き換えに俺はりんごの信頼を守り切ったのだった。
りんごには悪いが、俺はりんごの手前強気で抗議したものの、断腸の思いだったのは云うまでもない。
「剣城、」
すこし長引いた劇の練習から部室に顔を出そうと足を踏み入れると、空野が俺に声をかけた。
「剣城のクラス、劇、やるんだって、」
「ああ、知っていたのか」
クラスでは、出し物の題目も配役も一切秘密にしようと云う取り決めがなされていた。俺のクラには妙な連帯感があり何故か誰ひとりとして口外する者が居なかった。
「何をやるの、」
「それは残念ながら秘密だ、」
「剣城、何かの王子様?」
「それも企業秘密」
「あたし、知りたいなあ」
擦り寄ってくる空野を片手間にどかしながら俺は部室の扉をあける。
「ああもう離れろ、」
「善いじゃない」
何が善いものか、こんな所をりんごに見られたら何を言い出すか判ったものではない。
空野のなにともない好意には自惚れでも何でもなく気付いているが、邪険にはできない。それがかえって彼女に悪い気がした。
一体誰なんだ、俺とりんごの関係を男子だけの秘密にしようだなんて言い出した剣城京介は。
かといって今更空野に打ち明けて、彼女が簡単に受け入れるだろうか。
何かひと悶着あるに違いないと、俺は踏んでいる。
所で、終に文化祭というものがあと2カ月強でやってきてしまう訳だが、そのとき空野を含めこの関係を知らない人間が「あれ」をどう見るのか、面白さが半分、恐怖が半分だと眼を輝かせ俺の後を着いてくる空野をみながら思った。
(総じて最後は期待外れに終わるのだ、)
(報われない彼女も俺も、)
(そんなことはないと思ったけれど)
ふたつめの初夏にあたり、